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日常生活のアドバイス

こころのケア
がん患者さんのこころのケア
ケア
2023年1月作成

がんの疑い、告知、治療の各段階において患者さんとそのご家族は将来に対する不安などからとても辛い思いを経験し、うつ病を発症することも珍しくありません。また、精神状態により治療継続が難しくなるケースもあります。ここでは、がん患者さんのこころの状態に気づくためのポイントや適切なコミュニケーションの方法、また医療用麻薬処方の際の注意点などについて解説します。患者さんへの指導にご活用ください。

名古屋市立大学大学院 医学研究科
精神・認知・行動医学分野 教授
明智 龍男先生
  • 名古屋市立大学病院 薬剤部
    教授・部長
    日比 陽子先生
  • 名古屋市立大学病院 薬剤部
    緩和ケアチーム
    田崎 慶彦先生
  • 名古屋市立大学病院 薬剤部
    緩和ケアチーム
    飯田 萌子先生

Part1:患者さん・ご家族向け

がん患者さんに起こるこころの動き

日本人が一生のうちにがんと診断される確率は男性65.5%、女性51.2%(2019年データに基づく)である※1とされています。がんは誰にとっても身近な病気で、治療の進歩により、必ずしも死に直結する病気ではなくなってきています。
しかしながら、がんと診断されることは患者さんやご家族に大きなショックをもたらします。多くの患者さんはがんの疑いの時期からこころの動揺を経験し、その後も告知、治療の過程において、さまざまなストレスに直面します。これらのストレスに対するこころの反応は、ショック・混乱、不安・落ち込み、新たな生活への出発というおおむね3つの時期に分けることができます。

ショック・混乱の時期
「自分ががんになるわけがない、きっと間違いだ」といった病気を否定したい気持ちや、「もうだめなのではないか」といった絶望的な気持ちに苛まれる時期
不安・落ち込みの時期
今後のことに対する漠然とした不安や落ち込みから、ぐっすり眠れなくなるなどの状態が現れる時期
新たな生活への出発
こころが現実に適応し始め、つらい状況にありながらも物事の楽観的な側面に目を向けることができるようになる時期

医療関係者とのコミュニケーション

不安な気持ちやよく眠れない、食事を美味しくとることができないといった状態は、がんの検査では分からないため、医師に伝えることが必要です。しかしながら、がんの治療中は病気に関することだけではなく、生活や仕事のことなど、さまざまな不安があるため、医師にどのように伝えればいいのかよく分からないといったことも多いものです。
国立がん研究センターでは、医師との面談の際に疑問点や不安なことについて質問するときの例文や、よくある質問の説明をまとめた冊子「重要な面談にのぞまれる患者さんとご家族へ ―聞きたいことをきちんと聞くために―」※2を作成しています。このような冊子にあらかじめ記入して医師に渡すなども、医療関係者とのコミュニケーションを円滑にし、不安を軽減する一助となります。

医療用麻薬について

イラスト

がんによる痛みが強くなってきたときに、医師から医療用麻薬の使用を提案されることがあります。医療用麻薬は、「末期の患者だけが使うものでは?」「中毒になるのでは?」「使い続けると効かなくなるのでは?」といった疑問や不安も患者さんからよく聞きますが、そのような心配は不要です。医療用麻薬はがんの進行とは関係なく、痛みの度合いに応じて使用するものであり、医師の指導のもとで適切に使用することで、中毒が生じることはほとんどありません1)。また、効果があまり感じられない時には、他の薬に変更するなどで対応することもあります。医療用麻薬を使用すると便秘、吐き気、眠気などがあらわれることもありますが、薬などで対処することができます。また吐き気と眠気は自然とおさまっていくことが多いとされています。

ご家族のフォロー

がん患者さんは時に辛い気持ちからくる怒りを家族にぶつけてしまうことがありますが、それは家族に気持ちのはけ口を求めている、ということを理解しましょう。患者さんに対する不用意な励ましや、無理に明るく振舞うことなどは患者さんにとってはこころの負担となることがあります。普段から何でも話し合える雰囲気を作っておき、患者さんの話をとにかくよく聞くという姿勢が有用です。

また、がん患者さんのご家族は「第二の患者」とも言われるように、同じように辛い気持ちを抱えて、こころの負担が大きくなってしまうことがあります。全国のがん診療連携拠点病院には、「がん相談支援センター」が設置されており、がんに関する治療や療養、生活全般、地域の医療機関などについて相談することができます。こういったところで相談してみることも考えましょう。

Part2:医療従事者向け

がんが患者さんのこころに与える影響

がんの疑い、告知、治療は患者さんにとって人生における大きな出来事であり、患者さんのこころに多大な影響をもたらします。多くは将来に対する不安から気分の落ち込みや不眠など適応障害の症状を示しますが、それが重症になるとうつ病を発症します。日本における医療保険請求データベースを用いた研究では、健康な人に比べてがん患者さんでは診断後1年以内にうつ病を発症するリスクがおよそ3倍であったと報告されています2)

がん種では、転移のあるがん、すい臓がん、脳・中枢神経系のがんなど、予後不良のがんにおいて、うつ病発症のリスクが高く、性別では男性よりも女性においてリスクが高い傾向があり、年齢では40歳未満の患者さんにおいて最もリスクが高いことが分かっています2)

患者さんの精神状態が治療に与える影響

どんな患者さんでもがんの治療中は不安を抱えていますが、適応障害のレベルからうつ病を発症すると治療に対する意欲を喪失し、治療を拒否するケースが多くなってきます。乳がんの患者さんで抑うつがない場合、92.2%が術後化学療法を受けることを選択しているものの、抑うつがある患者さんではその割合が51.3%と4割程度低下するとの報告もあります3)

不安感を和らげるもっとも効果的な方法の一つは患者さんのニーズに応じた適切な情報提供です。丁寧な説明を心がけましょう。

がん患者さんのこころの状態に気付くために

患者さんは医療従事者に対して、必ずしも正直に不安や悩みを打ち明けてくれるわけではありません。こちらから尋ねるように心がけますが、その場合は以下に注意します。

  • ・プライバシーに配慮する
    薬局のカウンターなどで、周囲に人がいる時には尋ねることは避けるようにします。
  • ・定期的に聞くようにする
    患者さんのこころの状態は外見からでは判断できないことも多いため、普段と変わりないように見えても、診察時や処方時に定期的に気持ちの状態について尋ねるようにしましょう。
  • ・いきなり、気持ちについて直接的に尋ねることは避ける
    「不安はありますか?」のようにこころの状態をいきなり、直接的に尋ねても患者さんは答えづらいこともあります。
    まず、「睡眠はいかがですか?食事は美味しく食べられていますか?」のように睡眠と食事について聞くと患者さんも答えやすくなります。続いて、「不安や落ち込みはありませんか?」と尋ねるとよいでしょう。

こういった聞き取りから適応障害やうつ病が疑われたら、早期に専門医への紹介を考慮します。

医療用麻薬処方時の注意点

医療用麻薬については、がんの末期で処方されるものと誤解している患者さんは多くいらっしゃいます。そのため医療用麻薬処方時には、がんが進行していると思い込む一方で、それを受け入れたくないという心理状態が働き、処方を拒否されるケースもあります。

治療初期の段階で、生活の質を向上させるために医療用麻薬を処方するケースがあることを丁寧に説明するようにしましょう。

強い拒否反応を示す患者さんには無理強いすることはせず、理学療法や看護ケアなど代替の療法を提案し、患者さんとの信頼関係が築けた時点で改めて医療用麻薬を提案することも検討します。

また、例えば「孫と旅行に行く」という目標を持っている患者さんには、「それではまずベッドから出て歩けるようにしましょう」として医療用麻薬の使用を提案するなど、患者さんと長期的なゴール、短期的なゴールを共有して治療に臨むことも有効です。

がん患者さんとのコミュニケーション

がん患者さんは、ひとりの人間として尊重してほしいという想いを持っています。患者さんとのコミュニケーションにおいては病状や治療について丁寧に説明をすることはもちろんですが、患者さんの趣味など病気以外のことについて話をすると、患者さんは個人として関心を持ってもらっている、尊重されていると感じることができます。

服薬指導においては一方的に説明するのではなく、まず患者さんに「先生からお話を聞いてどんな印象ですか?不安なところはありますか?」と聞き、自然に会話を引き出せるように工夫しましょう。

また家族に配慮してほしいという患者さんも多くいらっしゃいます。重大な説明をする場合には家族の参加も促す、同席時には家族にも質問を促すなど、ご家族への配慮も忘れないようにしましょう。

医師を前にすると何を聞いていいのか分からなくなる、といった患者さんやご家族のためには、国立がん研究センターが医師との面談の際に疑問点や不安なことについて質問するときの例文や、よくある質問の説明をまとめた冊子4)を作成しています。より的確で円滑なコミュニケーションのために、こちらを患者さんにお渡ししておくことも有効です。

<参考文献>

  • 1) 日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会編,患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド増補版,金原出版,2017.
  • 2) T Akechi, et al: Risk of major depressive disorder in Japanese cancer patients: A matched cohort study using employer-based health insurance claims data. Psychooncology. 2020 Oct;29(10):1686-1694.
  • 3) M Colleoni, et al: Depression and degree of acceptance of adjuvant cytotoxic drugs. Lancet. 2000 Oct 14;356(9238):1326-7.
  • 4) 国立がん研究センター東病院 精神腫瘍学開発部
    「重要な面談にのぞまれる患者さんとご家族へ ─聞きたいことをきちんと聞くために─」
    (国立がん研究センターがん情報サービス:https://ganjoho.jp/public/dia_tre/dia_tre_diagnosis/question_prompt_sheet.html)(2023年1月閲覧)

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