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医療制度トピックスポリファーマシー対策のプロセス評価

かかりつけ医と保険薬局による
重複投薬防止スキームを提示~厚生労働省提案

2019年9月に開催された中央社会保険医療協議会 総会(以下、中医協総会)において、厚生労働省は、医療機関が患者の入院時に処方薬剤を総合的に調整する取り組みを行った場合に、診療報酬で評価することを提案しました。また、11月15日の中医協総会では、かかりつけ医と保険薬局が連携して患者の服用薬を把握して重複投薬を防止する評価の枠組み案を提示したことで、多剤服用によって有害事象が引き起こされる「ポリファーマシー」の解消のため、減薬の結果といったアウトカムへの評価だけでなく、プロセスの評価を導入するという枠組み案が示されたことになりました(図表1)(図表2)。

今後、診療報酬を算定するタイミングや算定要件など、より踏み込んだ検討が進められることになります。

図表1 外来時の重複投薬等への対応(検討の方向性のイメージ)

図表1 外来時の重複投薬等への対応(検討の方向性のイメージ)

出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会 個別事項(その9)(2019年11月15日)(一部抜粋、改変)

図表2 重複投薬についての現状・課題と論点

図表2 重複投薬についての現状・課題と論点

出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会 個別事項(その9)(2019年11月15日)(一部抜粋、改変)

保険薬局の報告を元にかかりつけ医が処方内容を調整

さらに、プロセス評価の枠組み案では、保険薬局には、お薬手帳の確認や患者への聞き取り等から、服用中の薬剤やその服用期間、処方医療機関を把握し、結果を一覧表にまとめて、かかりつけ医に報告(必要に応じて、処方医に処方背景等を確認)することを求める考えが示されました(図表3)。

図表3 重複投薬等の確認結果として薬局から医療機関に報告する内容(イメージ)

図表3 重複投薬等の確認結果として薬局から医療機関に報告する内容(イメージ)

出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会 個別事項(その9)(2019年11月15日)(一部抜粋、改変)

提案に対して反対意見は出ませんでしたが、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は、どのタイミングで報酬算定が可能になるのかを明確化するよう厚生労働省に要請。「ステップ①、②だけで評価するのは違うのではないか」との認識を示した他、診療側の有澤賢二委員(日本薬剤師会常務理事)は、保険薬局の業務負担を懸念し、「検討にあたってはできるだけわかりやすい仕組みにするとともに、それを担う各職種の負担を踏まえたものにしてほしい」と述べています。

ポリファーマシー対策 これまでの議論
「かかりつけ」が要を担う

ご存じのように、ポリファーマシーとは単に服用する薬剤数が多いことを指しているのではありません。複数の薬剤の併用による相互作用等によって転倒やせん妄などの有害事象のリスクが増加し、服薬過誤やアドヒアランスの低下などの問題につながる状態を指しています。この状態は高齢者に多くみられ、中医協の資料ではポリファーマシーが形成される事例として①新たな医療機関の受診による服用薬の積み重ね ②薬物有害事象に薬剤で対処し続ける「処方カスケード」の発生-を挙げています(図表4)。

図表4 ポリファーマシーが形成される事例

図表4 ポリファーマシーが形成される事例※

※ 出典:高齢者の医薬品適正使用の指針 総論編(2018年5月厚生労働省)に基づき医療課が作成
出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会 個別事項(その1)(2019年9月18日)(一部抜粋、改変)

また、その資料では、高齢者では6種類以上の投薬で有害事象の発生増加に関連したデータがあることや、75歳以上の高齢者で1か月間に1つの医療機関から処方される薬剤種類数が約25%で7種類以上、40%以上で5種類以上という現状を示しています。

厚生労働省はこれまで、このようなポリファーマシーへの対策として「高齢者の医薬品適正使用の指針」の総論を2018年5月に公表、2019年6月には各論をとりまとめて都道府県等に通知。また、2016年度の診療報酬改定では、入院前に6種類以上の内服薬が処方されている患者の処方薬について医療機関が総合的に評価して薬剤を調整し、退院時に2種類以上減った場合にそれを評価する「薬剤総合評価調整加算」(250点、退院時1回)を新設しました。

第1ラウンドでは厳しい意見も「減薬だけでは根本的解決にならない」

2019年7月に中医協総会で行われた2020年度診療報酬改定に向けた議論の第1ラウンドでは、議論の取りまとめが了承され、かかりつけ医機能の評価について、「複数の医療機関を受診する場合のポリファーマシーが問題であり、かかりつけ医が一元的に服薬の状況を管理できることが望ましい」との意見の他、「処方箋1枚当たりの種類数の制限や2剤の減薬はポリファーマシーの根本的な解決になっていない」「多職種連携による定期的な処方内容の確認といった服薬管理の推進について検討する必要があるのではないか」との意見が出されていました(図表5)。

図表5 2020年度診療報酬改定に向けた議論(1ラウンド)の概要(一部抜粋)

図表5 2020年度診療報酬改定に向けた議論(1ラウンド)の概要(一部抜粋)

出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会 令和2年度診療報酬改定に向けた議論(1ラウンド)の概要(2019年7月24日)(一部抜粋、改変)

入院時の対策として、評価・調整の取り組みそのものの評価を

また、9月の第2ラウンドの議論開始時点では、重複投薬の防止策に関して、現行、かかりつけ医による全通院医療機関と処方薬の把握・管理は「地域包括診療料」や「地域包括診療加算」等で評価されていますが、診療所においてはかかりつけ患者の全処方薬と通院先の把握を大きな負担と感じている実態があることが分かりました。このことから厚生労働省は、服用薬剤の把握や処方薬の総合的な評価・調整を円滑に行うための対応や連携を、新たに診療報酬上の評価の対象とすることを提案しました。また、入院時のポリファーマシー対策に関しては、これまでの減薬というアウトカム「薬剤総合評価調整加算」に着目した評価だけでなく、そこに至るまでの処方薬の調整プロセスも評価することを提示。併せて、退院時の薬剤情報を保険薬局に直接提供した場合の評価の新設も示しました。

減薬というアウトカム評価から、処方調整のプロセス評価へと変化を見せようとしているポリファーマシー対策ですが、その中心にいるのは「かかりつけ医」であり、「かかりつけ薬局」であることは間違いありません。病・診・薬連携だけでなく多職種連携が説かれて久しい中、その重要性は今後ますます高まっていくことは必至です。各医療機関、保険薬局等のより積極的な相互連携が進んでいくことに大きな期待が寄せられています。
--これらを踏まえた2020年度診療報酬改定は、2月上旬頃には個別改定項目が答申される見通しです。

(編集:株式会社日本経営 2019年12月作成)

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