施設の取り組み

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第17回 がん患者さんのための薬局薬剤師の取り組み外来がん治療認定薬剤師が果たす役割

薬局薬剤師にも開かれたがん治療専門の認定薬剤師制度

近年、がん治療は入院から外来化学療法にシフトしてきており、さらに分子標的薬を含む経口抗がん剤の増加に伴い、院外処方箋の応需により保険薬局ががん治療に携わる機会が増えてきている。そのような状況のなか、2014年に日本臨床腫瘍薬学会は「外来がん治療認定薬剤師」制度を開始した。本認定制度は、薬剤師の専門性を生かして、外来で抗がん剤治療を受ける患者さんとそのご家族をトータルにサポートする目的から、がん領域では唯一薬局薬剤師にも認定取得の門戸が開かれた資格である。2016年5月現在、認定薬剤師は307名、うち保険薬局に勤務する薬剤師は14名となっている。

神奈川県を中心に展開し、特定機能病院や外来で抗がん剤治療を受けている患者さんを多く抱える望星薬局では、現在、滝澤健司氏と久田健登氏の2名の薬剤師が外来がん治療認定薬剤師の資格を取得している。

認定制度が始まったばかりの頃、滝澤氏は薬局内でハイリスク薬の服薬指導を行うためのシステム開発に携わっていた。「それなりの提案をしたつもりでしたが、いざ現場で使ってみると、そのシステムだけでは十分な服薬指導ができるとは言えず、患者さんから情報を聞き出すことも苦労していました。これではいけないと思い、勉強をはじめました。その1つが抗がん剤治療です」と当時を振り返る。

 一方久田氏は、「外来がん治療認定薬剤師の勉強会に初めて参加した時、認定薬剤師に求められるレベルの高さに衝撃を受けました。自分はまったくその域に達していませんでした。しかし、薬局薬剤師が取得できる数少ない認定資格で、それだけの高いレベルが求められるということは、期待の裏返しだと考えました」と、認定取得を目指した動機を語る。

「外来がん治療認定薬剤師」と名乗ることで生まれる信頼と責任

外来がん治療認定薬剤師の資格を取得したからといって、実際にがん患者さんの服薬指導にあたり、それまでと何かが大きく変わったわけではない。ただ、「自己紹介の時にがんについて勉強している認定薬剤師であることをお伝えすると、患者さんからの信頼を感じることはあります。だからこそ、中途半端なことはできないと強く感じるようにもなりました」と滝澤氏は認定薬剤師としての責任の重さを語る。そのうえで、服薬指導に際しては2つのことに注意しているという。1つは「多くのことを一度に詰め込みすぎないこと」。初回の服薬指導の際にはすべてを説明するのではなく、最小限の重要な事項を説明し、徐々に信頼関係を築きながら、説明と患者さんからの情報収集を重ねていく。もう1つは「患者さんの生活環境に合わせた服薬指導を行うこと」。患者さんによって仕事、住居、家族など背景は様々である。それらを聞き取りながら個々に応じた服薬指導を行うとともに、細かな動作、前回からの様子の変化から窺える副作用の可能性を見逃さないように心がけているという。「例えば、タキサン系抗がん剤や白金製剤など院内で点滴しているような患者さんが薬局窓口で小銭を出すのに手間取っていたら、PTPシートから薬を出すのに苦労していないか確認し、一包化を提案したりします。」望星薬局では現在、一人の患者さんを同じ薬剤師が担当する体制をとっている。一人の患者さんに継続して関わるからこそできる服薬指導といえる。

久田氏も、「従来は処方箋の情報を介してのみの治療への関わりでしたが、がんについて学ぶ過程で、処方箋には書いていないことに目を向ける重要性を感じました。それはがん治療を取り巻く環境や患者さん自身のことです。それを意識してからは、単に薬の効果と副作用を伝える服薬指導ではなく、患者さん一人ひとりに合わせたアプローチを心がけるようになりました。知識が増えることでその引き出しも多くなります」と語る。

認定薬剤師資格取得のために学んでいくうちに、その患者さんが治療のどの段階にあるのか、処方箋を見ただけで推測できるようになったともいう。薬局が応需する抗がん剤の処方は、術後補助化学療法に用いられるものであるケースが少なくない。手術が終わったにも関わらず長期にわたって服用が必要となる薬剤もあり、そのことに疑問や抵抗を示す患者さんもいる。「できるだけ治療を完遂してもらうことが重要です。そのために服用の意義を理解してもらえるような説明を心がけています」(久田氏)。

薬局薬剤師としてできることは何か?外来患者さんへの電話サポート

病院でがん治療を受ける際には医師の診察があり、外来化学療法室などでは専任の薬剤師や看護師から治療や薬剤、その副作用に関する一通りの説明を受けたあとに患者さんは薬局に来ることとなる。また近年は診察前に薬剤師外来や看護師外来を設けている病院も少なくない。そのような患者さんに対して服薬指導を行っても、同様の説明となり、患者さんもすでに分かっているという思いが強い。では、「薬局薬剤師としてできることは何か?」と悩んだという。そのようなときに、「受診後に副作用が出てしまって、説明は受けていたけれどどうしたらいいかわからなくて結局、再度受診した」という患者さんに出会った。「受診と受診の間、自宅での治療中に薬局薬剤師ができることがあるのではないかと考え、行き着いたのが電話サポートの試みです」と滝澤氏は話す。

副作用が出ていないか、何か不安に思っていることはないかなどを電話で聞き、副作用についてはGrade評価を行い、次回受診まで患者さんがセルフマネジメントできるようであれば対処法を助言。必要と判断すれば医療機関の受診を勧めるなどのサポートを行う。この電話サポートの試みは、2015年3月から半年間、初めてS-1が処方された23名の患者さんを対象に実施され、日本臨床腫瘍薬学会でその結果が発表された。その間12名43件に有害事象が認められ、Grade 1が33件、Grade 2が9件、Grade 3が1件であった。滝澤氏が電話をした際に「昨日から口の中が痛くて食事も摂れない。薬を飲もうかどうしようか迷っていた」との相談を受け、Grade 3の口内炎に該当すると判断し、すぐに主治医に報告を行ったところ休薬となったケースもあった。電話サポートが重篤な副作用の早期発見に役立った事例である。

また、有害事象の発見だけではなく、副作用による苦痛やがん自体による身体症状、病状の進行や治療経過などの精神的苦痛などに対するケア効果も認められた。「一度電話した患者さんに『またお願いします』と言っていただくと、患者さんが不安を抱えておられ、そこに薬剤師が必要とされていることが実感できます。またこの時の電話サポートをきっかけに、現在はかかりつけ薬剤師として服薬指導にあたっている患者さんもいます」と久田氏は薬剤師の存在意義を見出す。さらに、電話サポートを実施した群と実施しなかった群を比較すると、患者さん本人からの薬局への電話件数が実施群で有意に多くなっていることもわかった。「電話サポートを行うことで、相談しやすい医療者として薬局薬剤師が認識されたのではないかと感じています」と滝澤氏は活動の成果を語る。

地域全体の薬局薬剤師のレベルアップを図るリーダーシップを目指して

外来がん治療において薬局薬剤師が果たす役割は大きくなってきているが、一方で課題も残る。研究として取り組んだ前述の電話サポートは、認定資格を持つ滝澤・久田両氏のみが行った。しかし、「来局するがん患者さん全てを私たち二人で対応することは不可能です」(滝澤氏)。がん治療に関する知識や経験が浅い他の薬剤師も自信を持って対応できるように、副作用のGrade評価の簡易化など、現場に落とし込んだシステム作りを考案中である。同時に両氏が教育者となって他の薬剤師のレベルアップを図る必要性も感じている。望星薬局は「学術・研究活動」「教育研修制度」「TQM(Total Quality Management)に基づくシステム開発」を3本の柱とし、その活動は文化として根付いているため、組織としてのバックアップ体制が整いつつあり、現在も何名かが外来がん治療認定薬剤師を目指しているという。「がん領域に限らず、それぞれの専門領域で引っ張っていく薬剤師は増えています。そうなると薬剤師全体のレベルも上がります」と、滝澤氏は近い将来への期待を語る。

これは地域の薬局薬剤師ががん治療に携わる場合も同様である。抗がん剤処方は望星薬局のみで応需しているのではないため、地域全体の薬局薬剤師のレベルアップも必要だとする。また、2015年に厚生労働省より出された『患者のための薬局ビジョン』では、健康サポート薬局として地域に貢献するとともに、特定機能病院の処方箋を応需し高度医療に貢献する薬局像も示された。薬局に対する期待の表れであるが、薬局の役割に対する社会的な認知はまだ高いとは言い難い状況にある。「今後は健康サポートも高度医療への貢献も両方を担っていかなければ認めてもらえない時代ではないかと思います。そのために、まずは学会発表など目に見える形で薬局の役割をアピールしていく必要があります。がん領域に関して言えば、少なくとも病院でがん治療に携わる薬剤師と対等に話ができるレベルにもっていきたい。そうでなければ薬局に対して期待もされないでしょうし、薬薬連携ができる環境にはなりません」と滝澤氏は現状を語る。

そのなかで、「外来がん治療の処方箋を多く応需する薬局の薬剤師には、意気込みを持って『外来がん治療認定薬剤師』を目指していただき、地域の薬剤師のレベルアップを図り、薬薬連携や地域のがん治療のリーダーシップを一緒に担っていきたい」と薬局薬剤師の役割の広がりと後進への期待を寄せる。


2016年7月取材

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