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医療制度トピックス

加速する医療DX~電子処方箋

2023年1月より「電子処方箋」を開始することが政府より発表されました。電子処方箋は、現在政府が進めている医療DX政策においてオンライン資格確認の次に実施される仕組みで、現在紙で運用されている処方箋をデジタルでやり取りできるように整備するものです。医療機関・保険薬局はオンライン資格確認同様、準備が求められることになります。

オンライン資格確認は「インフラ整備」、電子処方箋は「デジタルデータ化」

政府は、現在急ピッチで「医療DX(デジタルトランスフォーメーション)」にかかる政策を実現しようとしています。医療DXとは、医療分野におけるデジタル技術を活用した「変革」を意味します。従来のやり方をデジタルの力で効率化しようとする試みであり、それを全国規模で行おうとしています(図表1)。

(図表1)医療DXとは

(図表1)医療DXとは

出典:厚生労働省 第1回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム資料1 (一部抜粋、改変)

かつて医療の世界では、1970年代に生まれた「レセコン(医事会計システム)」によって、診療報酬算定業務が効率化され、レセプトの「オンライン請求」によって、請求業務が効率化されました。オンライン資格確認、電子処方箋、そしてその先にある電子カルテの情報共有によって、医療情報の共有を効率化しようとする動きが加速しています。

オンライン資格確認は、マイナ保険証に焦点が当たりがちですが、医療DXを実現するための「インフラ整備」として、医療機関をネットワーク化することが本質です。この実現なくして、医療DXは始まらないとも言えるでしょう。インフラ整備の原則は全員参加にあるため、多少強引にでも進める必要があるのも事実です。2023年4月には医療機関・保険薬局に「オンライン資格確認」を義務化、そして2024年には既存の保険証を廃止し、マイナ保険証一本化の方針が打ち出されています。

2023年1月開始予定の電子処方箋は、処方箋をデジタルでやり取りできるようにする仕組みです。現在は、オンライン資格確認においても薬剤情報を閲覧することができますが、レセプト情報を基にしているため、1カ月遅れの情報であり、医療現場では直近のデータを見ることができません。電子処方箋が普及することで、過去3年間、直近の処方履歴が閲覧できるようになります。

このデジタルデータを医療機関・保険薬局でやり取りするためには、オンライン資格確認に加えて、HPKI(Healthcare Public Key Infrastructure:保健医療福祉分野の公開鍵基盤)と呼ばれる医療機関・保険薬局の電子認証の仕組みを構築する必要があります。データ共有にかかるステークホルダーは、患者、医師・歯科医師、薬剤師です。これらすべてのステークホルダーが電子的に認証できてはじめて、なりすましや不正の無いセーフティな情報のやり取りが可能となります。

電子処方箋開始は、医療DXの中核「データヘルス改革」へ至る一路

オンライン資格確認、そして電子処方箋と矢継ぎ早に、医療DX施策が開始される背景には、コロナ禍で露呈した我が国の医療分野のデジタル化の遅れへの危機意識があります。政府は、全国で医療情報をやり取りできるプラットフォームを早急に構築する必要があるとしています。2021年10月より「オンライン資格確認」の運用が本格的に開始。その次のプロセスとして、2023年1月から「電子処方箋」を開始し、医療機関・保険薬局・患者間で医薬品データを連携できるようにすることで、医療の質向上および医薬品の効率的な使用につながると考えられています。

今後は医療機関・保険薬局・患者間で、処方だけでなく、検査結果や病歴、手術歴と医療情報の範囲を順次拡大していき、最終的にはカルテまでもが共有できる仕組みが計画されています。これらの取り組みの中で、医療情報の共有・蓄積が進み、その情報を2次利用することで、新たな価値が生まれると期待されています。これこそが政府が進める医療DXの中核である「データヘルス改革」の全貌です。

電子処方箋の基本的な仕組みと導入するメリットは?

電子処方箋の基本的な流れは、以下の通りです(図表2)。

  1. ①医療機関の医師が処方箋を「電子処方箋管理サービス(以下、管理サービス)」にアップロード
  2. ②保険薬局の薬剤師がその処方箋を薬局のシステム(レセコン等)に取り込み、薬を調剤。
    保険薬局の薬剤師は薬を調剤した後、調剤結果を「管理サービス」にアップロード
  3. ③薬剤情報は「管理サービス」に蓄積され、医療機関や保険薬局で閲覧でき、患者もマイナポータルやそれと連携した電子お薬手帳等で閲覧できる

(図表2)電子処方箋とは

(図表2)電子処方箋とは

出典:厚生労働省 第11回健康・医療・介護情報利活用検討会 本体資料1 (一部抜粋、改変)

電子処方箋が開始されることで、どんなメリットがあるのでしょうか。電子処方箋の普及が完了した場合、以下のようなことが想定されています(図表3)。

◆直近のデータを含む患者の過去3年分の投薬データを参照することができる
医療機関・保険薬局にとっては、電子処方箋が普及することで、複数の医療機関・保険薬局をまたいで、直近データを含む過去3年分の投薬データが参照できるようになり、正確な処方情報を基に診察・処方・調剤が可能となります。リアルタイムで処方情報が共有できるようになります。
◆処方・調剤において、重複投薬や併用禁忌がないかチェックできる
処方の際に、「重複投薬」がないか、「併用禁忌」にあたらないかを、「管理サービス」でチェックし、その結果が参照できる機能が用意されています。この仕組みを現在の処方箋発行から調剤に係る業務フローの中に組み込むことで、医師の診察・処方、薬剤師の調査をサポートできます。
◆入力項目チェック、重複投薬等チェックを活用することで、問合せ件数の削減が期待できる
医師が処方箋を発行する際に「管理サービス」側で項目に不備がないかチェックするため、形式的な不備による問合せ件数の削減が期待できるとともに、医師側、薬剤師側で重複投薬や併用禁忌のチェックを相互に利用することで、疑義照会自体の件数が減少することが期待されています。現在、医療機関と保険薬局の間で、処方箋の不備を確認し、不備があった場合は「疑義照会」として保険薬局から医療機関に処方内容について確認をしています。この仕組みはいまだ電話やFAXといったアナログな部分も多く、医療機関と保険薬局の情報連携の際に大きな手間となっており、そこが改善できるとしています。
◆保険薬局では、処方箋のレセコンシステムなどへの手入力負担や、保管・管理作業が軽減される
保険薬局では電子処方箋により、処方箋のデータをシステムに取り込むことが可能になり、手入力の負荷が軽減されるとともに、入力ミスの軽減が期待できます。さらには電子処方箋の場合、紙の処方箋を物理的に保管する必要もなくなり、保管スペースの確保やファイリング作業が不要となります。保険薬局にとっては大きな業務効率化につながります。

(図表3)病院・診療所でできるようになること

(図表3)病院・診療所でできるようになること

出典:厚生労働省 電子処方箋概要案内(令和4年11月21日掲載)病院・診療所向け (一部抜粋、改変)

一方、患者にとっても、医療機関と保険薬局で患者の医薬品情報が一元管理されることは、医療の質向上、不必要な処方・調剤の削減という観点から歓迎すべきことでしょう。また、患者自らが「マイナポータル」や「電子お薬手帳」で閲覧可能になることで、医療情報に気軽にアクセスできるようになります。

2022年10月には「電子処方箋管理サービスの運用について」が発出

2022年10月に、厚生労働省より現行の「電子処方せんの運用ガイドライン」が、「電子処方箋管理サービスの運用について(以下、サービスの運用)」へと改められました(現行のガイドラインは廃止)。現行では、任意の電子処方箋運営主体に向けて運用の考え方を示す指針でしたが、サービスの運用では医療機関・保険薬局などを含めた関係者に通知する内容に変更されています。

運用にあたっては、○電子処方箋管理サービスの仕様に合わせ、医療機関や保険薬局での運用の流れを盛り込む、○紙の処方箋を発行する場合でも、重複投薬や併用禁忌を確認するために処方や調剤の結果を電子処方箋管理サービスに登録する、○薬剤師の判断による分割調剤の流れ、○電子化された処方や調剤の内容を患者が確認する手段としてマイナポータルを利用する-などが明記されています(図表4)。

(図表4)医療機関・薬局における電子処方箋の運用ルール等について「電子処方箋管理サービスの運用について」(旧ガイドラインからの主な修正点)

(図表4)医療機関・薬局における電子処方箋の運用ルール等について「電子処方箋管理サービスの運用について」(旧ガイドラインからの主な修正点)

出典:厚生労働省 第11回健康・医療・介護情報利活用検討会 本体資料1 (一部抜粋、改変)

なお、医療機関・保険薬局が電子処方箋を開始するには、①オンライン資格確認の導入、②電子証明書等(HPKI)の取得、③現在のシステムの改修-などが必要になります。これらを実現するためには、ある程度の費用がかかることから、政府は電子処方箋導入に向けての補助金を用意しています。電子処方箋管理サービスの導入にかかる費用について、例えば診療所の場合、2023年3月31日までにシステムを導入した場合は、「19.4万円を上限に補助(事業額の38.7万円を上限にその1/2を補助)」ですが、2023年4月1日以降は補助率が1/3に下がります。できるだけ早期に導入した方が有利な補助金であることを踏まえ、準備を進めていく必要があるでしょう。

(編集:株式会社日本経営 2022年12月作成)
※本稿は2022年11年21日時点の情報に基づき作成いたしました。

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