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医療制度トピックス

かかりつけ医と外来機能分化

2022年度診療報酬改定(以下、次回改定)の議論の中では様々なキーワードがありますが、その中でも特に注目を集めているのが「かかりつけ医」ではないでしょうか。本号では、「かかりつけ医」に関する診療報酬の議論にフォーカスを当ててご紹介します。

次回改定を巡る議論は、衆議院議員選挙を挟みながらも着々と進んでいます。次回改定ではCOVID-19感染拡大後の初めての改定ということで注目を集めていますが、ここで注目しておきたいのが、2021年度介護報酬改定のトレンドです。こちらもCOVID-19感染拡大後、或いはその最中の改定となり多くの注目を集めましたが、その内容は若干のプラス改定という結果でした。

次回改定でも2021年度介護報酬改定と同様に、要件のハードルが高くなることが予想されます。これを「はしごを外す」といった表現をされることがよくありますが、ある程度の「量」が拡大してくれば、次は「質」を高めていかなければならないのは当然のことだと言えるでしょう。人口構造や医療技術の進歩、医師の働き方改革の推進を考えれば、「従来通り」のままでは新しい世の中には対応できなくなるということです。また、診療報酬改定とはこれまでの経緯や歴史の積み重ねの上に行われるものです。一足飛びに次回改定での新設項目等に対応できるということは決してありません。

診療報酬改定に備えて今やるべきことは、①2020年度診療報酬改定に対応できていたのか、業務の棚卸をし改めて現状の確認をする、②中医協の議論を確認・今後を予測しながら、院内で業務フローなどの確認・シミュレーションをしてみる-ということではないでしょうか。足場固めをしっかりと行い、次に備えることを今の時期だからこそ確認しておく必要があるでしょう。

そもそも「かかりつけ医」とは

「かかりつけ医」という言葉の定義は現時点(2021年11月)で明確ではありません。ただ、診療報酬では機能強化加算として、かかりつけ医機能を担う医療機関としての評価項目があります。さらにこの機能強化加算を詳しく見てみますと「外来のかかりつけ医機能」と「在宅のかかりつけ医機能」に分けることができます(図表1)。

(図表1)かかりつけ医機能を有する医療機関との関係強化

(図表1)かかりつけ医機能を有する医療機関との関係強化

出典:筆者作成

「外来のかかりつけ医機能」とは、地域包括診療料、及び地域包括診療加算のいずれかを届け出る医療機関で、生活習慣病の患者が重症化することなく、同じ医療機関に定期的に通い続けることを評価するものといえます。一方で「在宅のかかりつけ医機能」とは、在宅での看取りまで対応できる医療機関を評価するものといえます。

いずれのかかりつけ医機能にも共通するのは、「患者は同じ医療機関に一日でも長く通い続けること・訪問診療を一日でも長く受け続けること」ではないでしょうか。患者との長い付き合いをしていく、と言い換えることもできます。人口減少社会に突入している日本においては、新たな患者を獲得していく努力だけではなく、既存の患者が定期的に通い続け、重症化予防に努めてもらうことが、医療機関の経営においてはますます重要となっていきます。そして、こうしたかかりつけ医機能とは、一般病床200床未満の病院・診療所がその役割を担うことが期待されています。地域医療の観点でみれば、医療提供側の主人公はかかりつけ医機能を有する一般病床200床未満の病院・診療所であって(図表2)、一般病床200床以上の病院や専門診療所はそうしたかかりつけ医機能を有する医療機関をバックアップする役割が期待されている(図表3)、といえるでしょう。

(図表2)外来医療の役割分担(診療所、200床未満の病院)

(図表2)外来医療の役割分担(診療所、200床未満の病院)

出典:筆者作成

(図表3)外来医療の役割分担(200床以上の病院)

(図表3)外来医療の役割分担(200床以上の病院)

出典:筆者作成

事実、近年の診療報酬改定を見てみますと、一般病床200床を境にした明確な役割分担として、重症度、医療・看護必要度の重症者割合や地域包括ケア病棟の評価区分に一般病床200床以上か未満かで差をつけるようになっていることに気が付きます。

2021年5月に成立した医療法改正に伴い、2022年度からは外来版地域医療構想の始まりを予感させる外来機能報告制度がスタート。構想区域内における外来医療の役割分担も進むことになります(図表4)。一般病床200床以上の病院においては、病床稼働率なども確認しながら、今後を見据えて「病床を返上して200床未満となり、かかりつけ医機能を有する医療機関へと転換していくこと」も選択肢の一つとして考えておく必要もあるでしょう。

(図表4)2022年度からはじまる外来機能報告制度(案)

(図表4)2022年度からはじまる外来機能報告制度(案)

出典:筆者作成

一方、今後も一般病床200床以上で急性期入院医療や専門外来を中心としていく医療機関を志向していくのであれば、地域内にあるかかりつけ医機能を有する医療機関を支えるための専門領域に関する啓発活動や退院時共同指導料等を通じた連携をより強化していくことが必要だといえます(図表5)。

(図表5)退院時共同指導料への積極的参画を

(図表5)退院時共同指導料への積極的参画を

出典:筆者作成

尚、2021年10月の中央社会保険医療協議会・総会では、議論が紛糾しました。厚生労働省は外来医療の論点として、▽「地域包括診療料」「地域包括診療加算」の対象疾患への慢性腎臓病と心不全の追加▽「小児かかりつけ診療料」の施設基準見直し▽かかりつけ医と専門医の連携で「診療情報提供料(III)」を算定できないケースへの対応▽耳鼻咽喉科領域での「小児抗菌薬適正使用支援加算」の算定容認―などを提示しています。一方、支払側は既存報酬の手直しではなく、かかりつけ医機能の評価に関する報酬の抜本的な見直しを要請。診療側は反発し議論が紛糾しており、今後の議論の行方が待たれます。

かかりつけ医に求められるコーディネート能力

2020年度診療報酬改定では外来栄養食事指導料2の新設で、他の医療機関や栄養ケア・ステーションから管理栄養士を派遣してもらい、栄養指導をすることで評価されることになりました(図表6)。また、2019年の薬機法改正では薬局薬剤師による必要に応じた服薬フォローの義務化(図表7)が開始されました。服薬管理を薬局薬剤師に任せ、トレーシングレポートで状況確認することができるといった地域医療における専門職者の力量の発揮と、医師の負担軽減に対するインセンティブも確立。地域医療連携をさらに推進する環境が整備されつつあり、次回改定でもさらに推進されることが期待されます。

(図表6)管理栄養士との連携-栄養食事指導の見直し

(図表6)管理栄養士との連携-栄養食事指導の見直し

出典:厚生労働省 令和2年度診療報酬改定説明資料等について(一部抜粋、改変)

(図表7)改正薬機法のポイント-服薬フォローの義務化

(図表7)改正薬機法のポイント-服薬フォローの義務化

出典:厚生労働省 令和元年の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)等の一部改正について(一部抜粋、改変)

地域の医療資源を把握し、専門職者に力を発揮してもらうことで、患者の重症化予防を徹底。経営においても患者が通い続けることにつながり、診療報酬上の評価も得られることとなる-これからの人口減少社会においては、新たな患者獲得よりも、既存の患者が重症化せずに通い続けることが経営にも大きなプラスになるように診療報酬では設計されています。これからのかかりつけ医に求められているのは地域の医療資源をコーディネートする能力だともいえるでしょう。

また、患者の身体的・経済的負担も踏まえた治療や処方選択なども意識して、一日でも長く通い続けてもらうためには、次の診療でもお互いに元気な顔を見せ合うことができるかを意識した医療サービスのコーディネート力を合わせ持つことが重要です。

次回改定のポイントとなる「かかりつけ医」。執筆時点では、支払側と診療側の議論は平行線を辿っていますが、いずれにしても大きなポイントであることに変わりはありません。「外来機能報告制度」が2022年度から施行されることは決定しており、それに合わせて次回改定では、「かかりつけ医機能の強化」や「外来の機能分化を促す見直し」が進みそうです。26年度改定、28年度改定の頃には、強制的に定額負担を導入となる環境に変わっていく可能性もあります。今後の経営を中長期的に見据えながら、審議の経過を見守っていくことが、必要となってきます。

(HCナレッジ合同会社 山口 聡/編集:株式会社日本経営 2021年12月作成)
※本稿は2021年11月16日時点の情報に基づき作成いたしました。

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