閉じる

医療制度トピックス

続・地域医療連携推進法人の全貌
~医療経営の効率化を図る病院ボランタリー・チェーンの“潤滑油”として

現状、連携推進法人の認定は一般社団法人のみ

厚生労働省の「医療法人の事業展開等に関する検討会」が2015年2月9日に公表した報告書(以下、同報告書)から、地域医療連携推進法人(以下、連携推進法人に略)の具体的な内容について検証してみよう。

同報告書では、法人格について「(一部、略)都道府県知事は一般社団法人のうち一定の基準に適合すると認めるものを非営利新型法人として認定する。なお、医療法人等を社員とする社団型を基本とし、財団型については社団型の実施状況を見ながら検討する」とされた。また名称については、「例えば地域医療連携推進法人(仮称)が考えられるが、非営利新型法人の趣旨を踏まえ、法制的な観点も含めて検討し適切な名称にする」と明記されている。要するに現状では、医療法人ではなく一般社団法人だけが認められることになるが、将来的に財団法人も認めるような含みを持たせた表現がなされている。

更に名称については、この時点ではコンセンサスが得られていないようで、同報告書の中身そのものが完全なものではなく、“調整中”の印象を受ける。“調整中”と感じるのは同報告書の全体に亘って、「検討する」、「ものとする」等の抽象的な表現が目立つこと。一読しただけでは、「連携推進法人」参加の判断に困る医療機関が多いのではないだろうか。(尚、同報告書では“新型法人”という言葉が使われており紛らわしいので、本稿では連携推進法人という名称を使用することをお断りしておきたい。)

連携推進法人には2つ以上の病院等法人が参加するのが原則で、その事業地域範囲は「地域医療構想区域」を基本とし、参加法人については、「同構想区域内の病院、診療所または介護老人保健施設を開設する複数の医療法人。介護事業、地域包括ケアの推進に資する事業を行う非営利法人」が対象とされる。

また、「参加法人を社員とするのを原則とする」一方で、「営利法人、営利法人を主たる構成員とする非営利法人を参加法人、社員とすることは認めない」としており、非営利原則に則って極めて厳格な運用のなされることが望ましいと示唆されている。要するに、株式会社及び株式会社が主体となる非営利法人の場合でも、社員としての参加は一切、認めないと厳格に規定されている。

ここで示された非営利法人とは、医療法人だけでなく独立行政法人等の国公立病院系の法人も対象になる。介護系に関しても株式会社ではない社会福祉法人(社福に略)等は参加可能。厚生労働省としては、地域包括ケアの円滑な運用、更に経営の透明性に基づいた社福改革の観点から、寧ろ社福の積極的な参加を待ち望んでいるようにも思われる。尚、連携推進法人の社員は一法人・各一つの議決権を持つことを付け加えておきたい。

協働組合とも通底する連携推進法人のスキーム

さて、同報告書で“参加法人の共通業務や管理業務等の実施”という部分で、「連携推進法人全体の経営の効率化」を図るため、法人全体で実施出来る業務について明記されている。

具体的には(1)法人全体での研修を含めたキャリアパスの構築(2)医薬品・医療機器の共同購入(3)参加法人への資金貸付等の実施(4)介護事業その他、地域包括ケアの推進に資する事業のうち、非営利新型法人が担う本部機能に支障のない範囲内の事業-等を実施可能としている。(4)については介護に加えて、在宅医療サービス等も想定されるが、(3)では、こうした事業に未参入の参加医療法人がノウハウや資金支援(貸付)を得て、これらの事業に新規参入出来る可能性も示唆されている。

更に、連携推進法人の法人事務局、要するに本部機能に関しては、人件費、事務室の賃貸料、社員総会等の開催経費については、本部経費として支出。加えて共同研修や共同購入等の共通事務に係る経費については、業務委託料として個別に支出するとしている。

そして、もう一つ興味深いのは“非営利新型法人自身による病院等の経営”の部分。それに関しては、「経営リスクや業務負荷があることから、非営利新型法人の統一的な連携推進方針の決定等の業務に支障のない範囲内として、知事が認可した場合に限り認める」としている。知事の認可があれば連携推進法人で新たな病院の開設や、経営が可能になるということになる。つまり、地域包括ケアシステムの中で、求められる機能の病院が新たに必要な場合には、病院М&Aがやり易くなった。病院の合併や吸収の可能性が開かれたという点で、この部分は一歩踏み込んだ内容と言えるのではないだろうか。

法人全体での研修や参加法人同士の共同購入、更に法人からの資金貸付等のメリット等を鑑みると「合併未満、連携以上」とのコンセプトが理解し易い。これらの事業は特に珍しいものではなく、従来から医療業界で模索されてきた米国の非営利病院等で行われているボランタリー・ホスピタル・ネットワーク、小売業界等でも見られるボランタリー・チェーンのような緩やかなネットワークがイメージされる。そのネットワークの“潤滑油”になるのが、連携推進法人という図式だ。

厚生労働省も経営の効率化に資すると考えているようだが、前述したようなグループ化の推進は、わが国でも決して珍しいものではない。「薬価差」が病院経営で大きなウエイトを占めていた1980年代から90年頃は、一部の自治体等では、地元病院協会等が音頭を取り、薬剤の共同購入が実際に行なわれていた。例えば、関西の某自治体の私立病院協同組合等では複数の病院が出資して、薬剤センターを開設・運営した事例等もある。医薬分業が普及するよりも、随分、前の話ではある。全くの私見ではあるが、連携推進法人のスキームは病院の協同組合のイメージと重なる部分が多くはないだろうか。

「広域」ネットワークの議論からスケール・ダウン

連携推進法人に参加する医療法人や社福等は、グループ全体で統一した「連携推進方針」に則って活動を行っていくことが義務付けられている。前述したように、「地域医療構想区域内」を事業範囲としており、同構想区域を超えて医療・福祉事業等を展開する広域医療法人でも参加は可能だが、同方針の対象になるのは、あくまでも構想区域内、要するに当該地域内の病院等に限定される。これも私見ではあるが、このことが連携推進法人の普及・推進を「後退」させる結果を招いているように思えてならない。

前回に書いた欧米等の「統合ヘルスケア・ネットワーク」のスキームは「広域」ネットワークが前提だが、連携推進法人は「地域包括ケアの推進に帰する」と規定されるように、極めて小さなエリア内の再編で完結している。そのことが医療機関にとって魅力の乏しい制度になっているような気がしている。

日本は今後、高齢化が進み、人口減少社会を迎えるが、地方ではそれが更に進展する。私の知る限り、経営力の高い地方有力医療法人の経営者は人口減少でマーケット縮小が進む当該地域よりも、都市部での病院・介護施設経営等、よりグローバルな事業展開を求めている。政府の当初の新型法人(非営利ホールディング型カンパニー)の議論では、アメリカで70医療機関のアライアンスを実現しているメ―ヨクリニック(ミネソタ州)のような医療法人のグローバル的な発展・成長を期待されていたと記憶するが、厚生労働省も含めた現実的な議論のプロセスの中で、いつの間にかスケール・ダウンしていったのではないだろうか。規制が多く経営的メリットが少なければ、民間医療機関が触手を伸ばそうとする理由はない。全国的にも連携推進法人認定の動きが予想したよりもトーン・ダウンしているのには、そうした理由があると推測している。

「地域医療連携推進法人制度(仮称)」の創設及び医療法人制度の見直しについて

(2015年2月9日 医療法人の事業展開等に関する検討会より一部抜粋、改変)

参加法人の経営効率化を図るための共通業務や管理業務等の実施
  1. (1)法人全体における研修を含めたキャリアパスの構築
  2. (2)医薬品・医療機器の共同購入
  3. (3)参加法人への資金貸付等の実施が可能
  4. (4)介護事業その他「地域包括ケアの推進」に資する事業のうち非営利新型法人が担う本部機能に支障のない範囲内の事業について実施可能

参加法人への資金貸与等については、貸付、債務保証及び出資を一定の範囲に限って認めるが、租税回避の手段等となるような贈与については認めない。

地域連携推進協議会(仮称)の開催等
  • 地域関係者の意見を統一的な連携推進方針(仮称)の決定を含む法人運営に反映するため、地域関係者で構成する地域連携推進協議会(仮称)を非営利新型法人において開催し、非営利新型法人へと意見具申出来る。非営利新型法人は、その意見を尊重するものとする。
  • 地域医療に関して設定した目標・貢献度を基に、非営利新型法人の設立目的が達成されているのかを評価する。非営利新型法人は、その内容を公表するものとする。
  • 非営利新型法人においては地域関係者を理事に任命する。
非営利新型法人の剰余金の配当禁止・残余財産の帰属先の制限等
  • 剰余金の配当については、現行の医療法人制度と同様に禁止
  • 解散時の残余財産の帰属先については、現行の持分のない医療法人と同様に、国や地方公共団体等に限定する。
  • 役員には、利害関係のある営利法人の役職員を就任させない。また、親族等の就任制限要件を設定する
  • 定款変更における都道府県知事の認可等の医療法における規定を準用する。

( 医療ジャーナリスト:冨井 淑夫/編集:株式会社日本経営エスディサポート)

本資料の内容に関する一切の責任は日本経営グループの株式会社日本経営エスディサポートに帰属します。また、この資料のいかなる部分も一切の権利は株式会社日本経営エスディサポートに所属しており、電子的又は機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ無断で複製または転送等はできません。使用するデータ及び表現等の欠落、誤謬等につきましてはその責めを負いかねます。なお、内容につきましては、一般的な法律・税務上の取扱いを記載しており、具体的な対策の立案・実行は税理士・弁護士等の方々と十分ご相談の上、ご自身の責任においてご判断ください。