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副作用マネジメント

間質性肺炎

Vol.03

抗がん剤による薬剤性間質性肺炎

星薬科大学 実務教育研究部門 教授
鈴木賢一 先生

重症化させないための鈴木先生からのアドバイス

  • 初期症状は咳嗽、発熱など風邪の症状と類似しているため、患者さんは重症化することを想像しにくい可能性があり、診断が遅れる懸念があります。対策としては、通常の感冒症状や感染症に伴う肺炎とは異なり、場合によっては不可逆的な経過をたどることなどを含め、治療前に病態への理解を指導しておくことが重要です。
  • 初期症状が発現した際は、軽度であっても、夜間・早朝に限らずすみやかに医療スタッフに連絡できるよう体制を整えておくことが必要です。医療施設側の受け入れ態勢のみならず、同居家族や親類など患者さん本人の体調を管理できる社会資源の活用も視野に入れましょう。
  • 間質性肺炎は、抗悪性腫瘍薬以外では、市販薬、健康食品、G-CSF、NSAIDなど、あらゆる薬剤によって発現する可能性があることを念頭に置きましょう。
  • 鑑別すべき代表的な疾患としては、感染症、うっ血性心不全、肺血栓塞栓症、放射線肺臓炎、誤嚥性肺炎などがあります。確定診断に直結する検査方法はなく、問診や検査で除外診断により診断するしかありません。

代表的な薬剤

間質性肺炎を起こしやすい薬剤1)、2)、3)
薬効分類 薬剤名
アルキル化薬 シクロホスファミド、ブスルファン、ダカルバジン、テモゾロミド
代謝拮抗剤 5-FU、S-1、カペシタビン、メトトレキサート、シタラビン、ゲムシタビン、フルダラビン、ペメトレキセド
抗がん抗生物質 ブレオマイシン
微小管阻害薬 ビノレルビン、パクリタキセル、ドセタキセル
トポイソメラーゼ阻害薬 イリノテカン、ドキソルビシン、アムルビシン
白金製剤 シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン
分子標的薬 ゲフィチニブ、エルロチニブ、ソラフェニブ、エベロリムス、テムシロリムス
免疫チェックポイント阻害薬 ニボルマブ、イピリムマブ

※薬剤性肺障害のリスク因子について

  • 1)非特異的なリスク因子
    • (1)年齢60歳以上
    • (2)既存の肺病変(特に間質背肺炎、肺線維症)の存在
    • (3)肺手術後
    • (4)呼吸機能の低下
    • (5)高濃度酸素投与
    • (6)肺への放射線照射
    • (7)抗がん剤の多剤併用療法
    • (8)腎障害の存在(薬剤の血中濃度を高める意味でリスク因子と考えられている)

    日本呼吸器学会 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き作成委員会編,
    薬剤性肺障害の診断・治療の手引き,メディカルレビュー社より引用 

  • 2)投与薬剤に固有の傾向にも留意する
  •    例:ゲフィチニブの肺障害のリスク因子
       → PS不良、喫煙者、間質性肺炎の合併、正常肺の少ない症例でリスクが高い。

発現頻度および添付文書上の記載内容等

分類 薬品名 発現頻度(%) 間質性肺炎への投与 発現時期
アルキル化薬 ブスルファン 1.06 慎重投与(1) 平均3.5年
代謝拮抗薬
(ピリミジン拮抗薬)
ゲムシタビン 1.71 禁忌(2) 数時間〜数日以内
抗生物質
(その他)
ブレオマイシン 10.2 禁忌 6ヵ月以内は高リスク
(用量依存)総投与量450Uより増加
抗生物質
(アントラサイクリン系)
アムルビシン 2.2 禁忌(2)  
  ビノレルビン 1.35 慎重投与  
微小管阻害薬 パクリタキセル 0.63 慎重投与  
  ドセタキセル 0.61 慎重投与  
トポイソメラーゼ阻害薬
イリノテカン 0.87 禁忌  
  ノギテカン 不明 慎重投与  
サイトカイン インターフェロン 0.04 慎重投与 数週間〜数ヵ月
分子標的治療薬(抗体) リツキシマブ 不明 慎重投与(3)  
分子標的治療薬(小分子) ゲフィチニブ 4.46 慎重投与 数日後〜1ヵ月以内が多い
ブロゲステロン メドロキシプロゲステロン 不明 慎重投与(4)  
免疫チェックポイント阻害薬 ニボルマブ 4.2 慎重投与  
  • (1)肺障害のある患者
  • (2)胸部単純写真で明らかで、かつ臨床症状のある間質性肺炎症例に対して禁忌
  • (3)肺浸潤、肺機能障害のある患者またはその既往歴のある患者
  • (4)片頭痛、喘息、慢性の肺機能障害またはその既往歴のある患者

「鈴木賢一, 内藤立暁:薬剤性肺障害, がん薬物療法の支持療法マニュアル
~症状の見分け方から治療まで~(遠藤一司監修, 鈴木賢一, 中垣繁, 米村雅人編),
p.155, 2013, 南江堂」より許諾を得て転載

評価・鑑別

1. 発生機序4)
  細胞障害性 アレルギー性
発生機序 肺組織、肺胞上皮細胞、気道上皮細胞、毛細血管が直接障害されて
炎症が起こり間質の炎症へと進行する
免疫細胞の活性化による。アレルギー反応が起こると
血管の透過性が増加し間質への水分が漏出する
投与量 依存する 依存しない
ステロイドの
反応性
ステロイド投与により間質の炎症を抑える。
失われた上皮の再生を促進するわけではないので、
ステロイドの治療効果は限定的
過剰な免疫反応によって起こっているため
ステロイドの反応性は良好

※ほとんどの場合、両機序が相伴って発症する。

※発生機序に加え遺伝的素因、放射線療法歴、喫煙、酸素投与、総投与量、併用薬などが発症にかかわると考えられている。

2. 血液検査所見

(1)非特異的な炎症反応、組織障害、アレルギー反応項目の上昇

  • ・赤血球沈降反応上昇
  • ・CRP上昇
  • ・LDH上昇・末梢好酸球上昇
     *白血球は上昇しないか、してもわずかであることが多い。

(2)間質性肺疾患関連のマーカーの上昇5)

  • →間質性肺炎のバイオマーカーにはKL-6、SP-A、SP-Dがある。いずれもII型肺胞上皮細胞から産生され、KL-6は糖蛋白(ムチン)、SP-AおよびSP-Dは肺に特異的なサーファクタント蛋白である。SP-A、SP-Dに比べてKL-6が最も有用性が高いとの報告がある。
  マーカーの上昇
KL-6
  • ・肺胞壁が修復される際にⅡ型肺胞上皮細胞が過形成されるため上昇する。
    ただし、悪性腫瘍やニューモシスチス肺炎でも上昇することが報告されている。
  • ・特発性肺線維症、膠原病関連間質性肺炎、放射線肺臓炎、肺サルコイドーシスで上昇する。
  • ・特異度、感度共に高い。
  • ・EGFR-TKI(チロシンキナーゼ阻害薬)による薬剤性間質性肺炎発症との相関が確認されており、
    マーカーとして有用である可能性があるが、予後因子としての関連性は認められていない。
SP-A
  • ・特発性間質性肺炎とその他の疾患との鑑別補助診断、特発性間質性肺炎の急性増悪などで上昇する。
  • ・感度は高いが特異性が極めて低く、細菌性肺炎でも上昇する。
  • ・KL-6やSP-Dに比べてより早期に上昇する。
SP-D
  • ・肺疾患の存在を反映する可能性があり、肺の特異的マーカーとして考えられている。
  • ・SP-Dは、膠原病間質性肺炎や過敏性肺炎での陽性率が高い。放射線肺臓炎では陽性率が低い。

(3)β-D-グルカンの上昇

  •  真菌細胞壁を構成する多糖体であり、深在性真菌症のマーカー。ニューモシスチス肺炎との鑑別診断として有効。
3. 病型と各種マーカーの関連5)
  血液(バイオマーカー) BAL(気管支肺胞洗浄検査)
びまん性肺障害

(DAD:diffuse alveolar damage
広範な浸潤影やすりガラス様陰影に牽引性気管支拡張などの
構造改変所見がみられるのが特徴)

KL-6,SP-D,SP-A 全て上昇 好中球分画増加
器質化肺炎

(OP:organizing pneumonia
基本的な組織像は正常部を介して全体的には斑状分布を取り、
病変部と正常部の境界は明瞭)

SP-D,SP-Aの上昇、
KL-6は上昇しない症例が多い
リンパ球分画、好中球分画、
好酸球分画がそれぞれ増加
急性好酸球性肺炎

(EP:eosinophilic pneumonia
治療薬剤の投与中に、肺組織に好酸球が浸潤し、
臓器障害を起こす結果、呼吸困難などの
呼吸器症状を起こす疾患の総称)

  好酸球分画増加
肺胞蛋白症

(肺サーファクタントが貯留する疾患)

SP-D、SP-Aが著明な高値 -

休薬・再開

  • ※被疑薬をすみやかに中止し、治療の継続が必要な場合は、薬剤性肺障害の頻度の少ない他の種類の薬剤に変更を検討する。
    ただし、抗悪性腫瘍薬治療は肺障害が改善するまでは再開すべきではない。

    日本呼吸器学会 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き作成委員会編,
    薬剤性肺障害の診断・治療の手引き,メディカルレビュー社より引用 

  • ※再投与可能とされる薬剤もある。
     例.エベロリムスの場合は、発現率は高いが死亡率は低く、再投与も考慮される。
     → エベロリムスにおいては無症状(Grade1)が約3割の頻度で発生するが、継続投与していても回復・軽快する例があり、悪化は約2割と少ない。6)
       また、ステロイドによる治療反応性は良い。

治 療

1. 原因薬剤の中止。
2. 副腎皮質ステロイド投与を考慮。

1.細胞障害性の間質性肺炎が起きている場合

 臨床像:非心原性肺水腫、急性肺損傷/急性呼吸窮(促)迫症候群、びまん性肺胞障害 等

  または、呼吸不全をおこしている場合

ステロイドパルス大量療法注)
(パルス療法)
メチルプレドニゾロン1日1000mg 3日間
効果を確認しながら1~4回繰り返す。
パルス療法の後、治療として
プレドニゾロン内服を開始する場合
1日1回0.5mg/kgより開始
2-4週間ごとに5mgずつ減量。
  • ・重症例(PaO2が60Torr 未満)でDADを呈する症例や、進行が早い例ではステロイドパルス療法を行うことが多い。
  • ・DADを呈するか否かは、薬剤性間質性肺炎の予後を左右する要因のひとつと考えられる。
  • ・ゲフィチニブ、エルロチニブ、クリゾチニブにおける薬剤性間質性肺炎では、DADを呈することが多く、死亡率も高い傾向がある。

注)承認用法・用量外であるが、厚生労働省が公表する「重篤副作用疾患別対応マニュアル」にてパルス療法に関する記載がある

2.非細胞障害性(アレルギー性)の間質性肺炎が起きている場合

 臨床像:非特異性間質性肺炎、器質化肺炎、好酸球性肺炎、過敏性肺炎 等

ステロイド漸減療法 プレドニゾロン1日0.5~1.0mg/kg程度で開始
4週間服用後を目途に、再燃に注意しながら、2-4週ごとに5-10mgずつ減量。
  • ・ステロイド投与への反応性は良好であったとする報告も多いが、がん化学療法の途中でステロイド大量投与に伴うさらなる免疫能の低下などのリスクもあり、病型によってはステロイド投与にあたって慎重な判断が要求される。
  • ・薬剤によっては肺障害の症状のグレードによって投与中止後再開可能、もしくは投与継続と判断される場合もある。

 

その他、感染症の場合は抗菌剤の投与、心疾患はその疾患への処置となる。

日本呼吸器学会 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き作成委員会編,
薬剤性肺障害の診断・治療の手引き,メディカルレビュー社より改変引用

注意) 薬剤の使用にあたっては、各製品添付文書をご確認ください

休薬・再開

  • ・それぞれの薬剤の肺障害の頻度と患者の肺障害リスクを念頭に置く
  • ・相互作用の把握(AUCを上昇させる要因はないか)
     ー エルロチニブ食後服用
     ー CYP3A4阻害剤の併用(ゲフィチニブ、エルロチニブ)
     ー P糖たんぱく阻害剤(アファチニブ)
  • ・肺障害の特徴的な症状(咳、発熱、息切れ)の理解と症状発現時の連絡体制を整える。
     ※特に独居高齢者の場合は、親類なども含めて指導するなど工夫が必要。

 → 早期に発見し、早期に治療を開始することが重要

2019年12月更新



<参考資料>
1) 西條康夫,月刊薬事,57(2):49-52(213-216)(2015).
2) 斎藤好信,月刊薬事,57(2):53-57(217-221)(2015).
3) 鈴木賢一 他 編,がん薬物療法の支持療法マニュアル,南江堂,2013.
4) 伊藤善規 他,日本薬理学雑誌, 127(6) :425-432(2006) .
5) Hiroshi Ohnishi et al.,Am J Respir Crit Care Med,165(3):378-381(2002).
6) アフィニトール®錠 特定使用成績調査(根治切除不能又は転移性の腎細胞癌) 最終集計結果,2019.

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