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医療制度トピックス

外来患者の受診動向に変化か?
かかりつけ医療機関に問われる「広報力」

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本改定のポイント

  • かかりつけ医機能は、量的整備よりも「質」を重視
  • 「有床診療所一般病床」は“軒並み”高評価
  • へき地等に限定して「他医師との連携」による「オンライン診療」を認める
  • 「オンライン診療」の新機軸の登場~「遠隔服薬指導・遠隔栄養指導・遠隔禁煙外来」

2020年度診療報酬改定(以下、本改定)は「働き方改革改定」と総括されます。病院勤務医を中心とした医療従事者の勤務環境改善や負担軽減等を重点課題とし、幾つかの新機軸が導入されました。一方、外来を中心とする診療所については目立った改正点はなかったと言うのが大方の見方です。しかし、個別に内容を検証すると、2025年の地域包括ケアシステム実現に向けて、今後の医療提供体制再編に大きく影響する重要な改正点が複数見え隠れしているようにも感じます。

特に、今回から外来の選定療養費徴収を責務とする対象病院が広がったことから、大病院と中小病院との機能分化の流れが鮮明となり、診療所も含めた外来患者の受診動向が大きく変わるのは見逃せないポイントではないでしょうか。

かかりつけ医機能を担う診療所は、現在の機能をブラッシュアップすると同時に、的確な情報発信により、地域で存在感を発揮していくことが必要です。「行動する」診療所が、診療報酬で手厚く評価される時代を迎えようとしています。

「地域包括診療加算」の要件緩和は選定療養費の対象病院拡大と連動

前改定でかかりつけ医機能推進に端緒を開いた「地域包括診療料」は、本改定では、点数・施設基準共に現状維持でしたが、「地域包括診療加算」については、一部見直しが行われました。地域包括診療加算には9つの施設基準が設定され、全てを満たす必要があります。そのうち8番目の基準は三択要件であり、その一つに「時間外対応加算1又は2の届出を行っていること」が入っていましたが、本改定で「時間外対応加算1、2又は3の届出を行っている」場合でも算定可能になりました(図1参照)。

図1 地域包括診療加算の見直し

(出典:「令和2年度診療報酬改定の概要 資料」より一部抜粋・編集)

この「時間外対応加算3」を追加した要件緩和は、かかりつけ医機能を有した施設をより多く増やすことが狙いであるのは明白です。2018年7月時点で「地域包括診療料」を届出する医療機関は264施設(病院46・診療所218)、診療所だけが算定可能な「地域包括診療加算」は5,524施設です。未だ厚生労働省(以下、厚労省)が期待する程には増えていないものの、これら2つの診療報酬が創設されて既に6年間が経過しました。国は「大病院の外来は紹介患者を中心とし、一般的な外来受診はかかりつけ医に相談する」を基本とする外来受診システムの普及を目指し、診療報酬政策に留まらず「患者に適切な受診行動を促す施策」を次々と打ち出してきました。そして、前改定の「紹介状なしに外来受診した患者に対し特定機能病院及び400床以上病院に定額自己負担(初診5,000円以上・再診2,500円以上)を徴収する選定療養費」が、本改定から「200床以上の一般病床を有する地域医療支援病院」まで拡大されたのです。

これは明らかに患者の受診動向をコントロールしようとする施策ですが、地域のかかりつけ医機能を担う診療所や「200床未満」中小病院にとっては患者の流れが変わり、今後、大病院から診療所や中小病院への逆紹介を進めるインセンティブが働くことを背景に「広報力」を強化することが求められます。

連携先との情報連携を推進
~新設「診療情報提供料(Ⅲ)」

本改定における「機能強化加算(80点・初診時初日)」の要件見直しは、正にかかりつけ医の「適切な情報公開」と「広報活動」を促すものです。2018年度では「かかりつけ医機能を掲示していること」だけが求められていましたが、改定後は「取り組みを行っていること」と、「より進化した広報活動」の実践が求められます(図2参照)。

図2 かかりつけ医機能の普及の推進

(出典:「令和2年度診療報酬改定の概要 資料」より一部抜粋・編集)

この要件を踏まえ、具体的に何をすべきかについて医療広報に詳しい某NPO法人の代表理事は、「診療所では、①健康診断の結果等について健康管理の相談②保健福祉サービスの相談③必要に応じて専門医・医療機関のご紹介④夜間・休日のお問い合わせ(携帯電話番号等の緊急連絡先を記載)―等の入った情報を、例えばA4サイズ程のペーパーにまとめて編集して欲しい。イラストを活用した方が患者には見易いし、③については〇〇医療センター等の紹介可能な医療機関名も出来る限り入れる。そして、“都道府県の医療機能情報提供制度を利用して、かかりつけ医療機関を検索可能”との一文を必ず付け加える。これらを全て網羅したペーパーは、診療所のホームページに掲載するとともに、拡大印刷してポスター的に院内の見やすい場所に掲示し、患者が求めた場合はペーパーを持ち帰ってもらう。また、要件にはないが、地元の公民館や保健福祉センター、連携先医療機関や地元商店街等に置いてもらい、広報ツールとして活用出来れば、より効果的だろう。」と説明します。

また、「紹介元の専門医療機関等が当該かかりつけ医機能を持つ医療機関等へ情報提供を行った場合に評価される診療報酬」として新設されたのが「診療情報提供料(Ⅲ)(150点)」です(図3参照)。

図3 かかりつけ医と他の医療機関との連携の強化

(出典:「令和2年度診療報酬改定の概要 資料」より一部抜粋・編集)

「①当該かかりつけ医機能を有する医療機関から紹介された患者、②産科医療機関から紹介された妊娠している患者、産科医療機関に紹介した妊娠している患者、③別の医療機関からかかりつけ医機能を有する医療機関に紹介された患者―へ継続的な診療を行う際に、紹介元の医療機関からの求めに応じて情報提供した」場合に算定出来ます。何れも要件として「連携先医療機関の求めに応じて、患者の同意を得て診療状況を示す文書を提供する」ことが必要です。診療情報提供料(Ⅲ)は言い替えれば、「かかりつけ医療機関、又は産科・産婦人科と専門医療機関との連携」を促す新機軸であり、専門医療機関等はかかりつけ医療機関からの紹介を受けることの経営的メリットを享受出来ます。

また「小児かかりつけ診療料」の報酬点数は“据え置き”でしたが、継続的な診療を、より一層推進する観点から、算定対象となる患者を「3歳未満から6歳未満に拡大」し、「院内処方を行わない場合の取り扱いを一部見直し」ました。加えて、「診療情報提供料(Ⅰ)」において「医療的ケア児の主治医と当該児童が通学する学校の校医等が連携し、当該児童が安心・安全な学校生活を送れる」ように「主治医が必要な診療情報を提供した場合」の評価が新設されました。

これらの改正から、国はかかりつけ機能に関して、これまでの診療報酬等の経済誘導で普及を促す「量」的整備よりも、寧ろ「質」重視の仕組みづくりに軸足を移していくのではないかと推察されます。

有床診療所に対する重点評価の意味するもの

ここからは本改定で診療所に興味深い改正ポイントを検証していくことにしましょう。

各種加算を含めた新設項目は別として、診療報酬点数は現状維持が多くを占めた一方で、有床診療所(以下、有床診)に係る報酬点数が重点評価されています。「有床診療所入院基本料」に加算される「有床診療所一般病床初期加算」は、転院又は入院した日から起算した算定上限日数を「7日→14日」と2倍に。点数も「100点→150点」と1.5倍にアップ。この他、「医師配置加算1・2」も、1日当たり医師配置加算1(88点→120点)、医師配置加算2(60点→90点)とアップ。また、有床診の看護配置に係る加算点数「看護配置加算1・2」「夜間看護配置加算1・2」「看護補助配置加算1・2」も軒並み引き上げとなりました(図4参照)。

図4 有床診療所入院基本料等の見直し

(出典:「令和2年度診療報酬改定の概要 資料」より一部抜粋・編集)

これら有床診に対する高評価について、医療経営学の研究者は、「国は病院や病床数を削減したいことから、小規模病院から有床診へのダウンサイジングを促したいのが本音だろう。更に、全国各地で地域包括ケアシステムへの民間病院等の参加が、現状では思った程に進まないことから、厚労省は有床診を地域包括ケアへ積極的にコミットさせたいとの考えもあった。前改定では、「介護連携加算の新設」「在宅復帰機能強化加算の重点評価」等の介護との連携や、在宅支援の推進等にインセンティブを与えた。これらは、有床診・地域包括ケアモデル(医療・介護併用モデル)普及に向けての“一里塚”と言えるが、本改定における有床診・一般病床に係る重点評価は、国が目指すもう一つの専門医療提供モデルの普及・推進を目指したものと推察される。専門医療提供モデルについて国は、耳鼻科や眼科等を想定しているようだが、これらの診療科に留まらず、救急医療等を担う小規模一般病院が、病床を削減し、有床診に転換する際の類型として捉えているようにも見える。」と指摘しています。

この他、精神科の地域包括ケアシステムを進める視点から、「精神科退院時共同指導料」が新設されたことは、精神科・心療内科を標榜する診療所の先生方には重要な改正点と言えるでしょう。精神科退院時共同指導料は「①精神科病院の多職種チームと、②地域における外来又は在宅医療を担う精神科又は心療内科を標榜する医療機関の多職種チームが、退院後の療養等について、共同で指導を行った」場合の評価です。②で想定される外来・在宅医療を担う精神科、心療内科診療所等は、精神科退院時共同指導料1として、精神病棟に入院中の措置入院患者が対象の(Ⅰ)は(1,500点)、それ以外の精神病棟入院中の患者が対象の(Ⅱ)(900点)の2段階に設定されました。①の入院医療を提供する精神科病院対象の精神科退院時共同指導料2は700点と精神科退院時共同指導料1に比べると低い評価ですが、何れにおいても、専任の精神保健福祉士が必要で、多職種チームを配置可能な精神科・心療内科診療所等は、チャレンジしたい新設項目と言えるでしょう。

後発医薬品の使用促進の観点から、本改定では 2012 年に導入された「(処方箋料)一般名処方加算」は、1 (全品目を一般名処方)と 2 (1品目以上を一般名処方)の 2 区分が継続。点数は加算 1 ( 6 点→ 7 点)、加算 2 ( 4 点→ 5 点)と各々 1 点ずつアップとなりました。一方、各入院料の加算である「後発医薬品使用体制加算」(SKIM 改定特別号病院版参照)が 4 区分から 3 区分に再編され、こちらも各々 2 点ずつアップしています。一般名で処方された医薬品のうち後発品の占める割合は、増加傾向で推移してはいますが、2017年6月に「2020年9月の80%の数量シェア目標」とした閣議決定へ向けては、更なる取り組みが必要になります。これらのことからも、患者負担の軽減や医療保険財政の改善に向けて、診療報酬における後発医薬品使用促進への流れは、今後も当分継続されそうです。

新オンライン対象疾患に慢性頭痛が追加
~遠隔連携診療料新設

2019年の中医協の審議から注目されていた「オンライン診療料」(70点・1月につき)、「オンライン医学管理料」(100点・1月につき)、「在宅時医学総合管理料 オンライン在宅管理料」(100点・1月につき)及び「精神科在宅患者支援管理料 精神科オンライン在宅管理料」(100点・1月につき)のオンライン診療に係る診療報酬に関して、実施方法や対象疾患等の要件に一部見直しが実施されました(図5参照)。

図5 情報通信機器を用いた診療に係る要件の見直し

(出典:「令和2年度診療報酬改定の概要 資料」より一部抜粋・編集)

前改定では、「特定疾患療養管理料」「小児科療養指導料」「難病外来指導管理料」等を算定する「初診から6か月以上が経過した患者」の慢性疾患や難病、神経難病等の患者だけに限られて算定が可能とされていましたが、本改定から「初診から6か月」ルールは「3か月」に短縮。オンラインの対象疾患には「慢性頭痛」が追加され、「事前に診療・検査等を行った上で(中略)定期的な通院が必要なケース」に限定されています。

中医協の審議では、算定可能な対象疾患が限定されること、更に6か月ルールに加え、「緊急時に概ね30分以内に対面診療が可能」との要件が満たせず、オンラインの導入が伸びない実態が明らかになりました。そこで、本改定から緊急時の対応として、患者が速やかに受診可能な医療機関で対面診療を受け易いように「患者に予め受診可能な医療機関を説明した上で、診療計画に記載しておく」ことが要件として追加されています。

医療機関に特化したICTコンサルタントは「概ね30分以内ルールが今後も温存されるのかは分からないが、“概ね”とは極めて抽象的だ。実質的に形骸化しており、いずれは要件から削除されるのではないか。遠隔診療を進めたい国の方向性と30分以内ルールの存在は、どう考えても整合性が取れない。」と指摘しています。

重要なのが「へき地や医療資源の少ない地域の医療機関」において、「やむを得ない事情により(中略)他の医療機関の医師が、初診からオンライン診療料の算定を認める」との見直し(図6参照)。

図6 情報通信機器を用いた診療のより柔軟な活用

(出典:「令和2年度診療報酬改定の概要 資料」より一部抜粋・編集)

地域を限定した一定の条件付きではありますが、「他の医師との連携」によるオンライン診療を認める形となりました。

合わせて「遠隔連携診療料(500点・3月に1回)」が新設(図7参照)。

図7 かかりつけ医と連携した遠隔医療の評価

(出典:「令和2年度診療報酬改定の概要 資料」より一部抜粋・編集)

対面診療を原則とするのは2018年度のオンライン診療に係る報酬項目と同じですが、「かかりつけ医が専門医療機関等の医師と情報通信機器を用いて、連携して診療を行った」場合、「診断を行うまでの期間、3月に1回」算定が可能です。そして、従来にはなかった要件として、「請求については対面による診療を行うかかりつけ医療機関等が担うが、当該診療報酬の分配は相互の会議に委ねる」としている点です。診療報酬の“取り分”については国は介入せず、両者の相談による恣意的な判断に委ねて良いとの話で、これも非常にユニークと言えるでしょう。

他にも本改定から栄養士の係る「外来栄養食事指導料」の要件変更や、薬機法(医薬品医療機器等法)改正により解禁された保険薬局のオンライン服薬指導に係る報酬が新設されています(SKIM改定特別号 保険薬局版参照)。点数的に高評価とは言えないものの医師以外の管理栄養士、薬局薬剤師のオンラインによる指導が、診療報酬で評価されたのは画期的です。仮に慢性頭痛で月に1回診療所で外来受診している患者が、在宅でのオンライン診療に切り替えて、その後、薬局薬剤師のオンライン服薬指導を受ける等の一連の流れを作ることが出来れば、患者の利便性は格段に増す筈です。将来、規制緩和が実施され、仮に医療機関・保険薬局施設内だけでなく、自宅からの栄養指導・服薬指導等が解禁されるとなると、これら専門技術者の在宅テレワークへの道を開くことになります。

更に「ニコチン依存症管理料」の算定について、1回目は対面診療が原則ですが、2回目から4回目まではオンライン診療の報酬が新設(155点)されました。これまで「禁煙外来」に力を注いでいた医療機関は、治療中断の対応策として「遠隔禁煙外来」開設も可能になるでしょう。

本改定のオンラインに係る新機軸として、「遠隔連携診療料」に次いで注目されるのは「遠隔服薬指導・遠隔栄養指導・遠隔禁煙外来」の3つですが、まだまだ評価が低いのが現状です。今後の幅広い普及に向けて、次改定以降での更なる規制緩和と診療報酬での高評価が期待されます。

(医療ジャーナリスト 冨井 淑夫)
(編集:株式会社日本経営 2020年3月作成)

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