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医療制度トピックス

地域医療連携推進法人の全貌
~大学附属病院を主体とした地域医療再編に一石を投じることができるか?

大学病院改革の“一里塚”としても期待

筆者の親しい某公認会計士は第七次医療法改正で導入が決定された「地域医療連携推進法人」(以下、連携推進法人に略)について、「合併未満、連携以上」と説明してくれたが、公表された厚生労働省の「医療法人の事業展開等に関する検討会」の資料は非常に抽象的で分かり難い。医療現場の動向については、2年前に国立大学法人岡山大学を中心とした岡山市内の複数病院による「岡山大学メディカルセンター構想」の提言が注目を集めたことも記憶に新しい。

連携推進法人の前身とされる「非営利ホールディング型法人制度」の議論が最初に浮上したのは、2014年6月24日に閣議決定された「日本再興戦略」(改訂2014)だが、そこで「複数の医療法人や社会福祉法人等を社員総会等を通じて統括し、一体的な経営を可能とする非営利ホールディング型法人制度(仮称)を創設する」と明記された。

その制度設計に当たっては産業競争力会議医療・介護等分科会中間整理(2013年12月26日)の主旨に照らし、非営利ホールディングカンパニー型法人(以下、新型法人に略)への多様な非営利法人の参画(自治体、独立行政法人、国立大学法人等を含む)、意思決定方式に係る高い自由度の確保、グループ全体での円滑な資金調達や余裕資金の効率的活用、当該グループと地域包括ケアを担う医療・介護事業等を行う営利法人との緊密な連携等を可能にするため、医療法人等の現行規制の緩和を含める措置について検討が進められた。(※その後「医療法の一部を改正する法律」として、2015年9月に成立・公布。)

 同再興戦略で注目すべきは、「この新型法人制度を活用して大学附属病院が、他の病院との一体的経営を実現するために大学附属病院を大学から別法人化出来る様にする措置」や、「自治体や独立行政法人等が設置する公的病院が、新型法人制度に参画することの出来るよう必要な制度措置」等について検討するとしていることだ。恐らく「岡山大学メディカルセンター構想」が浮上した背景には、こうした大学病院主導によるダイナミックな地域医療再編への期待があるからと推測される。

また、この動きには別の見方も出来る。近年、医療安全に係る事案が発生したことで、大学附属病院のガバナンス改革が急務の課題とされてきた。厚生労働省では特定機能病院の承認要件見直しが検討されるようになったが、大学病院改革を進めたくても、その独立性等から、容易には進められない現実もある。

この新型法人は、大学附属病院の「経営の自立」を進めると同時に、地域の他の病院・福祉施設等とのコラボレーションにより、よりスケールアップした事業展開が可能になるという点で、大学病院にとっての利点は大きい。「岡山大学メディカルセンター構想」には、多くの障壁により進められなかった大学病院改革の“一里塚”となり得ることも期待されたが、参加する病院との調整や意思統一は簡単に進まないことは想像に容易い。民間の医療法人病院では理事長(病院長)の強力なリーダーシップにより、成長・発展してきた経緯を持つ医療施設が多い中で、連携推進法人に参加する医療機関、社会福祉法人の数が多ければ多い程、協議には時間を要する。手を上げるのは現状で2法人、多くても3法人程度の同盟関係成立が現実的ではないだろうか?

地域医療連携推進法人制度について

統合ヘルスケアネットワークと連携推進法人の違いとは?

実際に地方の民間医療法人を中心とした吸収合併の動きは多く耳にするのだが、連携推進法人に関する新たな動きについては、全国的に余り進展していないのが現状のようだ。「日経ヘルスケア(2016年7月号)」で、連携推進法人に関する特集が組まれているが、その中で岡山県真庭市の(社医)緑壮会金田病院(172床)と(医)井口会落合病院(173床)の事例が紹介されている。同記事を引用すると、『改正医療法成立後の2015年11月には「落合病院金田病院連携協力推進協定」に2病院が調印、今年2月からは推進協議会の中で、地域医療連携推進法人の検討に入った』とされている。連携推進法人は機能の異なる専門病院間では重複する診療機能が少ないので進め易いと思われるが、この2つの病院はほぼ同規模で、何れも急性期病床(金田病院はDPC導入・7対1)を有するケアミックス型の病院。更に両院は400mという距離の近さに在る。

こうした2つの競合する病院のコラボレーションは非常に珍しい。筆者は5年前の2011年に緑壮会金田病院の金田道弘理事長、井口会の味埜泰明名誉院長(当時)を取材させて頂いたことがあるが、この2つの病院の協力・連携は、一朝一夕ではなく、連携推進法人の議論より5年以上も前から始まったものであることに注目したい。

当時の取材を振り返ると、具体的には2010年4月より両院は2カ月に1回、合併・統合をも見据えた将来戦略の検討を目的に、「落合病院・金田病院連携推進協議会」をスタートさせている。当時、真庭市には7つの救急告示病院が屹立し、医療資源が大きく不足する状況では無かったが、医学部の定員削減や新医師臨床研修制度等に直撃を受け、真庭市に隣接する岡山県県北地域の自治体では勤務医不足に悩み、救急医療から撤退する病院が相次ぎ、医療崩壊が進行していた。

そのため金田氏は各地域の消防署の協力や圏域外の拠点病院と連携を図りながら、広域的な救急搬送システムを構築することに尽力した。この時の体験から金田氏は、「広域医療圏の中で医療機能の重複を避けながら、機能分化を進め、地域全体として医療資源を効率的に活用しつつ、医療提供体制を構築」する米国等の「統合ヘルスケアネットワーク」のような仕組みを構想していると語ってくれた。そのためには「将来的に一つになるとの選択肢を前提に、2つの病院間で具体的な議論を煮つめている」とも。

しかし今回、改正医療法で導入される連携推進法人のスキームは、果たしてアメリカやオーストラリア等で動いている「統合ヘルスケアネットワーク」と同じものなのだろうか?コンセプトはそれに近いものはあるのだが、厚生労働省の示す制度の中身は、同ネットワークは距離があるものとではないかと、個人的には感じる。次回では連携推進法人の具体的なスキームについて考えてみたい。(次回に続く)

( 医療ジャーナリスト:冨井 淑夫/編集:株式会社日本経営エスディサポート)

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