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医療制度トピックス

2016年度 診療報酬改定 解説レポート
精神科 今改定のチェックポイント
  ~一般病院の精神疾患患者転院受け入れを重点評価

2015 年10 月に行われた中医協総会では、現在「精神病床とそれ以外の病床を共に有する病院は、施設数、精神病床数共に減少傾向」で推移し、「精神科医療は単科病院で提供されることの多い」ことが分かった。更に総合病院でも精神病床を有する医療施設は顕著に減少し、外来のみに対応をシフトする医療機関の多いことが明らかになっている。

地域移行・地域生活支援を含む質の高い精神科医療の評価


その一方で「精神病床に入院する統合失調症の患者で、高齢化する程、合併症を有する人の割合が高くなる」「精神病床に入院する認知症患者の割合は、近年増加傾向にあり、処置の回数・件数も増加傾向にある」とのデータも示された。これは近年の高齢化や、疾病構造の変化を考えると当然の結果と思われるが、精神病床が50%以上を占める医療機関の場合、2011 年度の1 施設当たりの内科系医師の割合は1.23 人、外科系医師の割合は0.22 人と余りにも少なく、脆弱な精神科合併症の医療体制を改善する必要性が明らかになった。

精神疾患を有する救急患者の受入状況


更に一般病院で精神疾患を有する救急患者の受け入れに対して、「原則的に、受け入れを断っていない」ケースは救命救急センターの81.4%に対して、二次救急医療機関は29.3%に留まっている。受け入れを断る理由として、最も多いのが「専門外で対応が難しい」(72.8%)との回答。今改定で新設された「精神疾患診療体制加算1・2」は「専門外で対応が難しい」とする一般病院が、精神科病院からの求めに応じて、合併症を有する精神疾患患者の転院や早期診断・治療を促すことを目的に導入されたものだ。これは正に精神科医療で、現在必要とされているニーズに対応した新機軸となっている。また同加算は、一般病院における「合併症を有する認知症患者のケアを評価する認知症ケア加算と一体的に検討すべき項目」との見方も出来るだろう。

同加算1 は1,000 点(入院初日)の高評価であり、一般病院で「精神科病院の求めに応じて、身体の傷病に対し、入院治療を要する精神疾患患者の転院を受け入れた場合」に算定出来る。同加算2 は一般病院において、「身体の傷病と精神症状を併せ持つ救急搬送患者を、精神保健指定医等の精神科医が診察した場合、または精神科を標榜していない病院が他の医療機関に精神科医の対診を求めた場合」に算定可能。点数は入院初日から3日以内に330 点/ 1 回となる。

「自殺防止」の視点から要件緩和と新機軸導入を実現

総合病院の精神病棟における手厚い医師配置に対する評価として、現行の「精神科急性期治療病棟入院料1」に対する「精神科急性期医師配置加算」(500点)が入院基本料等加算に組み換え再編・新設された。新たな対象となるのは、「精神科急性期治療病棟1」に加え「精神病棟入院基本料」(10対1、または13対1に限定)、または「特定機能病院入院基本料」(7対1、10対1、または13対1に限定)を算定する病棟。同加算を算定する医療機関の対象が拡充されている。

この他、「精神科救急・合併症入院料」、「精神科合併症管理加算」の対象疾患に、「内科系学会社会保険連合」(内保連)が認めた、特に重篤な疾患が追加されたことにも注目したい。追加の対象疾患・病態は間質性肺炎の急性増悪、肺塞栓、劇症肝炎、重篤な血液疾患や末期の悪性腫瘍、急性腎不全、合併症妊娠等。(下記参照)

【2016年診療報酬改定の精神科医療に係る改定項目】

●「精神疾患診療体制加算1」(新設) 1000点(入院初日)
●「精神疾患診療体制加算2」(新設) 330点(入院初日から3日以内に1回)
(主な施設基準)
  • (1)許可病床数が100床以上で、内科、外科を標榜し、当該診療科に係る入院医療を提供。
  • (2)精神病床数が当該医療機関全体の病床数の50%未満。
  • (3)二次救急医療体制を有するか、救命救急センター、高度救命救急センターもしくは、総合周産期母子医療センターを設置。
●「精神科リエゾンチーム加算」 300点(週1回)
(主な施設基準)
*以下の3名以上から構成される精神科「リエゾンチーム」の設置されていること。
  • (1)5年以上の勤務経験を有する専任の精神科医師。
  • (2)精神科の経験3年以上を有する所定の研修を修了した専任の常勤看護師。
  • (3)精神科病院または一般病院での精神医療の経験を3年以上有する専従の常勤PSW等。 ただ同リエゾンチームが週に15人以下の患者を診療する場合は、専任PSWでも可。
●「救急患者精神科継続支援料」(新設)
  • 1.入院中の患者 435点(月1回)
  • 2.1以外の場合 135点(6カ月に6回まで)
(算定要件)
自殺企図後の患者に生活上の課題や、精神疾患の療養に関する課題を確認し、必要な助言・指導等を行う。同支援料1は週に1回以上の診療を行っている精神科医、または当該精神科医の指示に基づき、看護師、PSW等が、入院中の患者に助言・指導等を実施した場合に算定。同支援料2は入院中に当該患者の指導を担当した精神科医または精神科医の指示を受けた看護師、PSW等が、入院中の患者以外の患者に、1カ月に2回以上、電話等で指導を行った上で、外来で指導等を実施した場合に算定。
(主な施設基準)
自殺企図後の精神疾患患者への指導に係る適切な研修を受けた専任の常勤医師1名及び適切な研修を受けた専任の常勤看護師、または専任の常勤PSW等1名が適切に配置されていること。
●「精神科重症患者早期集中支援管理料1」
  • イ.単一建物診療患者数1人の場合 1800点(月1回)
  • ロ.単一建物診療患者数2人以上の場合 1350点(月1回)
●「精神科重症患者早期集中支援管理料2」
  • イ.単一建物診療患者数1人の場合 1480点(月1回)
  • ロ.単一建物診療患者数2人以上の場合 1110点(月1回)
(算定要件)
*以下の全てに該当する長期入院患者または入退院を繰り返し、病状が不安定な患者を対象に算定。
  • (1)1年以上入院して退院した者、または入退院を繰り返す者。
  • (2)統合失調症や気分(感情)障害の等の状態で、退院時におけるGAF尺度による判定が、40以下等の者。
  • (3)精神科を標榜する医療機関への通院が困難な者。(精神症状により単独での通院困難者を含む。)
(主な施設基準)
  • (1)常勤の精神保健指定医、常勤の保健師または常勤の看護師、常勤のPSW及びOTが配置されていること。
  • (2)緊急の連絡体制を確保すると共に24時間往診または精神科訪問看護、もしくは精神科訪問看護・指導を行える体制を確保していること。(略)

2012年の診療報酬改定で新設された「精神科リエゾンチーム加算」は精神科医の他に、専門性の高い看護師、経験のあるPSW・OT・薬剤師等の多職種連携チームの取り組みを評価したものである。2014年の調査では届出医療機関数は、54施設に留まっていた。その理由として、届出していない医療機関の約半数が「チームを構成する専門職種の確保が困難である」と回答していた。200点(週1回)だった点数を、今改定では300点に引き上げると同時に、専任の常勤看護師に関しては、精神科等の経験5年以上から3年以上に要件緩和した。そして専従だった常勤精神保健福祉士等に関しては、「同チームが週に15人以内の患者を診療する場合は、専任でも可」とハードルが下がった。

そして同リエゾンチームのスタッフが「自殺企図後の患者に対して、退院後も一定期間関与して、助言や指導を実施した場合の評価」として、「救急患者精神科継続支援料1・2」が新設された。対象は「自殺企図等による入院から6カ月以内」の精神疾患患者。1の点数は435点(入院中の患者に月1回)、2は135点(入院中の患者以外で6か月間で6回まで)を限度に算定出来る。実際に自殺企図者を含めて、自損行為による救急搬送患者が増加傾向で推移していることを考えると、自殺防止に対する医療機関の取り組みを重点評価したことは、国策としても非常に意義深い新設項目と思われる。

大幅な要件緩和・点数アップで、精神科アウトリーチの普及を期待

2014年度の診療報酬改定で、「精神科重症患者早期集中支援管理料」が創設された。これは、改正精神保健福祉法の中でも重視されてきた精神科のアウトリーチ事業を初めて評価したもの。「長期入院後や入退院を繰り返す病状が不安定な退院患者の地域移行を推進するために、24時間体制の多職種チームによる在宅医療」に対して算定出来る。

同管理料は「保険医療機関が単独で実施する場合」の1と、「訪問看護ステーションと連携する場合」の2が存在し、在宅医療に関連した項目と同様に、何れも「同一建物居住者以外に比べて、同一建物居住者で特定施設等入居者は半分の点数に、特定施設以外の同一建物居住者の場合は、更にその半分の四分の一」に点数設定されていた。

ただ2年前の検証調査で、「専任のチームを構成する人員の不足」や、「24時間の往診・訪問看護が可能な体制が確保出来ない」等の理由で、2014年7月現在で届出医療機関数は、僅か7施設(5病院・2診療所)のみに留まっている。今改定ではこれを受けて、精神科アウトリーチ事業の更なる普及と推進を図ることを目指して、要件の緩和と同時に、点数の引き上げを実施した。

例えば同管理料1の場合、現行の「イ・同一建物居住者以外1800点 ロ・同一建物居住者・特定施設900点 ハ・同一建物居住者・特定施設以外450点」と設定されていたのが、「イ・単一建物診療患者数が1人の場合1800点 ロ・単一建物診療患者数2人以上の場合1350点」と同一建物居住者の場合の「特定施設」の優位性を取り払い、「同一建物診療患者数」で一本化した。更に「1人の場合」と「2人の場合」の二段階で再編して、重点評価を実施。同管理料2に関しても、1と同じ設定で、現行の「イ・1480点 ロ・740点 ハ・370点」から、「イ・1480点 ロ・1110点」へと再編された。

この他に、「精神症状により単独での通院が困難な者を含む」との文言を追加。従来、算定する場合に認められていなかった「障がい者福祉サービスの利用も可能」とされた。この他にも施設基準では、「OTの常勤要件を外す」と同時に、往診や訪問看護については、両者での「24時間体制での支援」要件を緩和して、「何れか一方について、24時間対応可能な体制が整備」されていれば良いとされた。要するに往診と訪問看護の連携で「24時間対応」が確保されていれば可能とされている。この要件緩和の影響は大きく、同管理料を届出する精神科医療施設は、現在の7施設から今後、大幅に増えることが期待される。

この他の項目では、精神科デイ・ケア、同ショート・ケア、同デイ・ナイト・ケア、同ナイト・ケアの要件が厳しくなった。従来は「1年以上を超える場合は、週5日を限度に算定」出来たが、「週4日以上実施する場合」には、細かい要件が設定された。詳細は診療報酬点数表を見て頂きたいが、精神科デイ・ケア等に注力する精神科クリニック等には、経営的な打撃が大きいのではないだろうか。

(医療ジャーナリスト:冨井 淑夫 / 編集:株式会社日本経営エスディサポート)

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