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医療制度トピックス

残薬管理の仕組みづくり
~調剤薬局と介護施設の連携

高齢者の在宅介護で何に一番苦労するかと聞かれると、服薬アドヒアランスの顕著な低下を挙げられることが多くあります。高齢者は多くの疾患を抱え、数多くの薬剤を処方されていることが多いですが、認知能力が落ちて来ると、処方される薬が多いために自己管理が困難になります。介護者が同居の場合はサポートも可能ですが、独居高齢者の場合はサポートする人もおらず、残薬が増えていくという悪循環に陥る人も少なくないのが現状です。糖尿病や心臓病等の慢性疾患を持つ高齢者は、適正な服薬が行われなければ、治療効果が得られず症状が悪化することも想定されます。

在宅医療・介護への薬剤師の関与とその意義

中医協の「在宅医療における薬剤師業務について」(平成23年)によると、「潜在的な飲み忘れ等の年間薬剤費の租推計は約500億円」とされており、在宅医療における薬剤業務の課題として、「医療・福祉関係者への周知・理解不足」、「在宅薬剤管理指導業務に対応できる薬局・薬剤師の不足」、「一部の高齢者向け住宅・施設の入所者に対する薬剤管理」等が指摘されています。実際に残薬問題に関しては全国各地域の薬剤師を中心に、様々な取り組みが行われています。

具体的には、複数の医療機関を受診し処方薬の多い患者さんの場合は、各々の処方医との疑義照会を頻繁に実施し、一包化して整理。また手間暇はかかりますが、患者さん毎に服薬カレンダーを作り、患者さんへの「個別対応」による残薬管理・指導により、改善を図っているケースも見られます。県薬剤師会の取り組みでは、所属する薬局で残薬を患者さんに持ち込んでもらい、改善を図ろうとする動きも現れています。

ただ高齢者の残薬を防止するためには、薬剤師だけの取り組みでは実際には難しく、介護事業所のケアマネジャーや介護職員、介護施設の職員や家族の協力を得なければ、効果が上がらないことは間違いありません。大学薬学部の6年制教育導入以降の薬剤師不足が顕在化している現在、マンパワー等の問題で在宅薬剤管理指導業務が難しい調剤薬局は多くあります。やはり在宅の場合は、ホームヘルパーや家族が残薬管理を担わなければならないケースが多くあります。

また、公的介護保険の利用の仕方にもよりますが、認知症の症状が出ている独居老人で1日に1回程度しか訪問介護を利用していない場合等は、服薬アドヒアランスが十分に維持されていない可能性が高いと言われています。地域の「かかりつけ」調剤薬局が、地域住民や介護事業者等と連携し、独居老人の情報を共有して、当該患者さんの服薬状況を確認する手立てが必要です。地域で認知症サポーターの資格を取得して、独居老人のボランティアに関心のある人達に協力してもらい、定期的に巡回して独居老人の服薬状況を確認する、或いは地域の自治会長とも情報交換を密にして、地域の独居老人の状況を日常的に把握することなどの試みがすでに始まっています。

一方、在宅よりも困難と言われるのが施設に入居されている高齢者の薬の管理です。訪問薬剤管理指導を行っている薬局から定期的に施設訪問を行っているケースは別として、入居者の服薬管理については、施設毎にその対応に違いがあります。

例えば特別養護老人ホームの場合は、要介護度の高い高齢者が多いため、大抵の場合は看護師が個々の入居者の服薬管理を行っています。医療専門職のマンパワーが乏しい中でも、特別養護老人ホームの看護師と調剤薬局が協力して、入居者の効率的な服薬管理の仕組みを作ることが重要です。グループホームや有料老人ホーム等は、介護職員や看護師がその役割を担うことが多くなるでしょう。介護職員に対しては、可能であれば薬局・薬剤師が教育・指導をしていく環境づくりが必要です。

サービス付き高齢者住宅等の施設は、要介護度の高い人、自立出来る人等、多様な高齢者が入居しています。入所し年月を経るに伴って、要介護度が高くなり、「外付け」の介護サービスを利用する高齢者も増えて来るでしょう。徐々に服薬アドヒアランスの低下が表れるので、施設長と連携を密にして、利用者の長期的な観察と指導が必要になります。

地域に根付いた薬局は、在宅医、訪問看護ステーションも含めて様々な事業所と連携し、情報を共有して高齢者に対応していく役割が求められます。残薬管理の仕組みづくりを模索し実現することは、介護施設や家族の協力が必要不可欠であり、地域包括ケアシステム確立への第一歩となるのではないでしょうか。

(医療ジャーナリスト:冨井淑夫 編集:株式会社日本経営エスディサポート)

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