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施設の取り組み
岐阜市民病院

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調剤支援
トータルシステムと
検査値を利用した
処方鑑査で
実現した調剤過誤防止と
薬剤の適正使用

岐阜市民病院

01より安全・安心な調剤業務を目指す
調剤支援トータルシステムの導入

CHITOSHI GOTO後藤 千寿氏(岐阜市民病院薬剤部 薬剤部長)

一般病床559床、精神病床50床を有する岐阜市民病院は、岐阜医療圏における中核病院として、急性期医療や地域医療に取り組んでいる。また、がん領域においても地域がん診療連携拠点病院、がんゲノム医療連携病院として、年間のがん疾患入院患者数は3,054名、外来化学療法センター治療患者数は4,352名を数える(2017年)。
同院薬剤部では、2019年の目標として、「調剤支援システムによるリスク管理の強化と運用の充実」「入院患者さんへの安心な薬物療法の提供」「地域連携の強化」を掲げており、独自に開発した『調剤支援トータルシステム』が大きな役割を担っている。
本システムは、医薬品マスター(バーコード情報を含む)を軸に、①処方箋・チェック箋・薬袋発行システム、②散剤調剤支援システム、③水剤・軟膏調剤支援システム、④錠剤分包システム、⑤計数調剤支援システム、⑥画像保存システム、⑦重量鑑査システム、⑧調剤進捗状況確認システム、⑨抗がん剤調製重量鑑査システムの9つで構成されている。処方オーダーとともに患者情報(身長、体重、体表面積、検査値・検査日)が表示されるチェック箋を用いての処方鑑査により、薬剤師に安全・安心を担保するとともに、患者さんへの正確な医薬品の提供を実現している。
「本システムは2016年の電子カルテシステム更新の機会に、医薬品の適正使用と調剤過誤の防止を目的として構築しました。本システム導入後、調剤過誤件数は激減し、直近の2019年1月~2月では数量間違いに関しては0件となっています」(後藤氏)。

02調剤した薬剤を画像で保存し、
院内スタッフや患者さんからの問い合わせにも対応

調剤に関するインシデントやアクシデントは、処方鑑査、薬剤の取り揃え、秤量・調製、薬袋へ調剤した薬剤を入れる際など、様々な場面で起こりうる。同システムでは医薬品の取り間違い等を防ぐために、医薬品マスターを中央管理とし、外部媒体でGS1コードも定期的に更新される仕組みとしている。これまで減らすことが困難であった数量の間違いに関しては、調剤した薬剤と薬袋の総重量を秤量し、目標値とマッチングさせる重量鑑査システムを導入することで回避できるようになった(図1)。
薬剤部で調剤鑑査が終了すると、病棟の電子カルテ端末の調剤進捗状況確認システム画面では、調剤済みと情報が更新される。また、調剤した薬剤は画像で保存されるため、数量違いが疑われる問い合わせにも即時に対応できる。
「どのような場面でどのような間違いが起こるかを想定し、それをなくすためのシステムを構築しました。手間が増えた部分もありますが、間違いや問い合わせは格段に減らすことができました。何よりもスタッフの安心が大きな成果です。システムを信頼して手順通りに実施すれば過誤が起こらないようになっており、入力間違いや思い込みによる確認ミスなどヒューマンエラーをなくす運用を行えば、調剤過誤は限りなく0に近づけることができるはずです」(後藤氏)。

03検査値がリアルタイムで反映され
抗がん剤治療の妥当性を薬剤師も確認

調剤支援トータルシステムは、抗がん剤調製時にも有用性を発揮している。調製する薬剤をGS1コードで確認しながら調製するため、抗がん剤だけではなく輸液等も間違うことがない。また、以前は調製者と別に調製量を確認する薬剤師が調製量を確認して調製を行っていたが、抗がん剤重量調製鑑査システムの導入により、調製量をシステムにて確認することができるので一人でも調製を終えることができるようになった。
これらのシステムを確立する一方で、患者さんの最新の検査値をチェックシートに記載するように、抗がん剤の適正使用への積極的な関わりを進めている。従来は電子カルテにて検査値を確認したうえで事前に抗がん剤の処方鑑査を行っていたが、現在は2ヶ月分の投与履歴、直近3回分の検査値が記載された『抗癌剤プロトコール監査チェックシート』(図2)を当該システムで出力できるため、処方オーダーが適正かどうかを電子カルテを見ることなく確認できるようになった。
「投与量は2ヶ月分記載されているので、治療と治療の間の患者さんの状態の変化を確認できます。例えば、1コース目と異なり、2コース目で減量されている場合、検査値の変動を見ることで患者さんの状態の変化がわかります」(後藤氏)。
さらに治療当日は『抗がん剤実施確認票』(図3)が発行され、当日測定された検査値を抗がん剤を調製する薬剤師も確認し、投与が妥当か否かを確認する。
「薬剤師が当日の検査値を確認し、処方医に問い合わせを行ったことで投与が中止になったケースもあり医療安全に大きく貢献しています。紙ベースで確認できるので、調製者の負担軽減にもなっています」(後藤氏)。限られた人数で運用するなかで、より正確で効率的な調剤が可能になった。

04保険薬局薬剤師の参加により
地域に向けたよりよいがん治療を目指す

調剤支援トータルシステムの導入により、正確な調剤とより質の高い処方鑑査を実現している岐阜市民病院薬剤部が次に目指すのは、入院から退院、在宅に至るまでの薬剤師によるシームレスな関わりである。
地域連携室を中心に実施されている退院時共同指導において、入院時の薬物療法と治療経過について当院の薬剤師が説明を行っているが、退院後に患者さんに携わる保険薬局薬剤師の参加は、現在70%程度である。開始当初は20%ほどであったので参加率は上がってきているが、退院後も薬剤師が服薬指導にしっかりと関わっていくために、保険薬局薬剤師が100%参加することを目指している。
「退院する患者さんが、かかりつけ薬局を持っていない場合もあります。その際には、岐阜市薬剤師会や近隣の薬剤師会に協力を依頼し、患者さんのご自宅近くの保険薬局を紹介していただき、その薬局の薬剤師に退院時共同指導に参加していただけるようお願いをしています」(後藤氏)。
岐阜地域では多層的な地域連携ネットワークにおける研修会の開催や、市民病院内に休日急病センターを設置し、当院の調剤室内で保険薬局薬剤師と協働して調剤業務を実施することなどを通じて、病院と保険薬局の薬剤師同士で顔の見える関係が構築されている。
「外来でがん治療を受ける患者さんが、治療と治療の間どのように過ごされたのか、状態の変化があったのか把握することが難しい病院薬剤師に代わって、保険薬局で副作用の発現などを確認できるように、『副作用モニタリングシート』などを作成し、活用してもらえるようにしています」と後藤氏は保険薬局薬剤師への期待を話す。
岐阜市民病院薬剤部の取り組みは院内にとどまらず、地域に向かって広がりを見せる。